換金

第3話 換金

 四枚の千円札。
 
 それを、パフェは緋三虎から受け取った。
 
 先週分の、代金として。
 
「はい、今週分」

 袋に入った砂金を、緋三虎が数える。
 
「45個……で、間違いない?」

「うん。一週間後までに、四千五百円。ヨロシク!」

 錬金術の結晶、ヴァンパイア・ウィルス。それは他種のウィルスと反応し、完成した。
 
 アルミニウムを金に変える。
 
 錬金術の求めた、一つの目標。
 
 全ての卑金属を、とまではいかないが、十分に使える能力だ。
 
 もう一つの目標、不老不死も、パフェの遠い遠いご先祖様が、ほぼ成し遂げている。
 
 曾祖父ちゃんとか、曾々祖父ちゃんという表現で正確に数えるならば、曾が軽く十個以上、並べる必要が生じる。
 
 初代ヴァンパイアとも本人は言い、つまりは、未だ以って、生き続けている化け物だ。
 
「ヤクザの娘って、こういう時に便利よね」

「……人前でそれ言ったら、絶交よ?」

「ゴメン、ゴメン。

 そうね……娘の立場からしたら、嫌なものよね」
 
「あなたがうらやましいわ」

 パフェの眉間に皺が寄る。
 
「あんなクソ親父の、どこが良いの?」

「恰好良いじゃない。『ヴァ』ってイメージが、凄く合ってる」

「普通じゃない、って意味なら、アンタの父さんもそうじゃない。

 ……まぁ多少は、ホントにちょっとだけは、格好良いと、認めないことはないわけじゃないけど……」
 
「……?
 
 それって、認めない、ってこと?」
 
「……認めない、ことはない、わけじゃないだから……認めない事になる……?

 ……。
 
 まぁ、良いじゃない。その程度でしかないんだから」
 
 途中、パフェの頭がフリーズしたが、笑って誤魔化した。
 
 緋三虎は、そんなパフェにはもう慣れている。まるで何事も無かったかのように、会話は進んだ。
 
「作家でしょ?それも専業。

 それで一家を養える。才能が無ければ、出来ないことじゃない?」
 
「……それ、才能が無い事になるの?」

「才能が、なければ、出来ない、ことじゃない?だから……。

 最後の『ない』は、推論の意味であって、否定の意味じゃないから、先に出た二つの『無い』を打ち消すと……才能があるから、出来ることじゃ……って意味にならない?」
 
 言った緋三虎も混乱していれば、それより頭の悪いパフェは、当然、何が何をどう意味しているのか、意味不明だった。
 
「……難しく言わないで、簡単に纏めてみましょうか。

 パフェは、私と父親の交換はしたい?」
 
「ヤだ。緋三虎は交換したいの?」

「勿論!

 ……言いたいことは分かった?」
 
「そうか……。あれ以上を求めるのは、高望みなのかなぁ……」

「傍目には、理想的。

 当事者から見て、どう?」
 
「人間味が、ない」

 そりゃそうだ。ヴァンパイアなのだから。
 
「何より、母さんに感染させた事が、気に食わないわ。そんな必要、無い筈なのに」

「……聞いてないの?その経緯?」

「知ってるの?」

 お互いで、相手の持っていたりいなかったりする情報に、不可思議を感じる。
 
「うん。……命を、落としそうになったそうよ。

 助ける手段は、恐らく感染させるしか無かった。
 
 私の父さんも、その一件には関わっていて、命ですら償い切れぬ恩を感じているそうよ」
 
「あのバカ親父、話さないから……」

 吐き捨てるような、『バカ親父』のフレーズに、様々な想いが込められているのを、緋三虎は感じ取った。
 
 けなす事を、最高の賛辞とする、特に男に多い、美学だ。
 
 外見はともかく、中身は男勝りのパフェは普通に使うし、緋三虎も小説の世界と、パフェとの付き合いから理解していた。
 
「知っていたら、評価は変わっていた?」

「少し、ね」

 それでも、まだ『バカ親父』扱いだ。それが緋三虎には信じ難い。
 
 緋三虎は密かに、パフェの父親が好きだったりしたから、余計に。
 
「……お母さんと、比較し過ぎているんじゃないの?」

「それは……ある、と思う。

 だって。あれ以上の理想的な母親のイメージを、アタシは持つことが出来ないわ」
 
「私も、ある意味、私の母親に、今以上の理想を求めるとしたら……生きていて欲しかったという以外に、思い当たらないわ」

 嫌な話題に逸れてしまったと、パフェは後悔した。
 
「……ごめん。部活、もうそろそろなの。だから……また、ね」

 行く気も無い部活の話で、強引に話を終わらせ、緋三虎もその理由を察する。
 
「うん、頑張って!」

 知っていても、素知らぬフリ。眉一つ動かすことなく緋三虎がそう出来るのには、理由があって――
 
「そうだ!

 一族の秘伝で、優勝祈願してあげよう!」
 
 実は緋三虎、パフェが思っているほどのツラさなんて、まるで感じてなどいなかったりするのだった。