魔法理論

第17話 魔法理論

「……そろそろ、私の話を聞いて貰えますか?」

 一呼吸、間を置いてフラッドが口を開いた。
 
 口を出さずに放っておくと、そのまま忘れられてしまったかも知れない。
 
 二人が驚いたような反応を示したのを見て、フラッドはそう思った。――そう確信したと言っても良いかも知れない。
 
「ええと……そうですね。

 僕も言いたいことは色々ありますが、まずはあなたの話を聞くことにします。
 
 ――どうぞ」
 
「まずは……そうね。

 あなた」
 
 フラッドがまた歩き始めたかと思うと、結局また、クィーリーの前で立ち止まる。
 
「あなたが『EMA』である以上、必ずしも人間の敵では無い事は分かりました。

 翼が収納出来る事には驚きましたけれど、それ以上を気にするつもりはありません。
 
 私たちの敵は、暴走した『ENA』以降の新しいタイプのエンジェルですから、退治するつもりもありません。
 
 ただ、一つ聞いておきたい事があります。
 
 あなたは魔法科学研究所について、どの程度知っているの?
 
 ついでにアイオロスさん、あなたも。
 
 ……出会う前から疑問には思っていたけれど、アイオロスさん、あなたもまさか、魔法科学研究所の関係者?」
 
「関係者……ではないと思いますけど。

 僕が師匠にそういった施設が世の中にはある、――正確にはあった、っていうことを聞いていて、何か役に立つものが無いか、探しに行ったら……」
 
「――まさか、そこにあなたが居たの?」

 フラッドの問いに、クィーリーが頷く。
 
「アイオロスさん、あなたまさか、魔法科学研究所の正確な位置を知っている、なんてことは……」

 今度はアイオロスに問い掛けられる。
 
 頭の中で数えてみて――
 
「……海底に沈んでしまったのも含めれば、あと10箇所ほど」

「――それもまさか、あなたの師匠から?」

 頷く。フラッドは天を仰ぎ、嘆息する。
 
「あなたの師匠って、何者?

 研究所の関係者であった私ですら、6箇所しか知らないのに」
 
「僕がデビルとして旅に出る前、僕の住んでいた町の裏山で暮らしていた、ただのちょっとした変わり者です。

 まあ、僕が旅に出た時より少し前に、師匠も先に旅に出てしまいましたけどね。目的も告げずに。
 
 何でも一通りこなしていましたね。腕前がどの程度だったのか、見ててもちっとも分かりませんでしたけど。
 
 剣の腕だけは、ある程度、引き継いでいますよ。
 
 それでも足元に及ばない程、差があります。未だに追い付いたなんて自信はありません。
 
 僕としては、多少の魔法も覚えておきたかったんですけど、『覚えが悪過ぎて役に立たないから諦めろ』と、かなり早い段階で言われて以来、さっぱり教えてくれなくなってしまいました。
 
 せっかく頑張って、理論から始めて一生懸命覚えたのに……って、愚痴ってスミマセン」
 
 フラッドの顔色が変わったのを知って、アイオロスは話が長すぎたと思い、反省する。
 
 しかし、師匠はアイオロスから見ても謎が多過ぎて、多くの事を語る事でしか、掴み所の無い彼を表現出来なかった。
 
 ただ、フラッドが表情を変えた理由は、それではない。
 
「魔法を、理論から、教えていたのですか?その、あなたの、師匠は」