第43話 香霧の勝負
そして、運命の日は訪れた。
仕事を終えた楓は、睦月がいないのをいいことに、夕食も取らず、自分の部屋に明かりも灯さずに閉じ籠り、ネットを組む為に香霧とサイコワイヤーを繋ぎ、念の為にあの赤いパーカーのプラグを繋いで、ベッドの上に膝を抱えて座っていた。
運命の刻が訪れるまでには、時々、香霧が強く念じたことが物凄いボリュームで聞こえたりしていた。
――早く、早く悪夢よ、終わって!
楓はひたすら、そう願っていた。
時はゆっくりと流れ、そして――訪れるべき時が訪れた。
閉ざされた心が開かれ、何もない原野の光景が広がり、そこにデュ・ラ・ハーンが2頭の頭の無い馬に牽かれた戦車に乗って現れた。
楓は素早く自分のプラグを一つ抜き、香霧とネットを組んだ。香霧がグングニルを構えるイメージを心に浮かべるのが分かった。
が、一向にグングニルは具現しない。
『Ya-Ha-!
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャジャーン!
Hey、You!駄目ネー、友達にネットを組んでもらっちゃ。
ここはYouの心の中。Youの力でネットを組まないと、力を借りる事は出ッ来マセーン。
Ha-Ha-。Youの力、余りにも弱すぎマース。Meに勝てる可能性、ゼロに等しいネー。Meのグングニル、避けられるものなら避けてみて下サーイ。
レッツらGo!』
何だか奇天烈な掛け声と共に放たれたグングニルを、香霧はサイコワイヤーを展開して短距離テレポートで避けた。
『頼むよ、ドラゴン!』
仕返しとばかりに、香霧はドラゴンによる攻撃を試みた。
デュ・ラ・ハーンに当たり、爆発したかに見えたエネルギー弾。
だが、それによって、デュ・ラ・ハーンを傷つける事は出来なかった。
『Ha-Ha-!ただのドラゴンで、Meに傷の一つでも与えられると思っていたのデスか?
そんなもの、イージスを使う必要すら無いネ。
ただのテレポート如きで、完全にグングニルから逃れられると、本気でそうお思いデスか?
避け続ければ良い。成る程。
では、テレポートで逃げるのなら、そのサイコワイヤーを封じさせてもらいまショウか』
デュ・ラ・ハーンがそう言って展開したサイコワイヤーの数は、香霧の展開するそれの10倍か、それ以上。
簡単に、香霧のサイコワイヤーは封じられてしまった。
『今度こそおしまいネ。
ByeBye』
香霧が振り向けば、背後から迫るグングニル。
狙い違わず香霧の元へと突き進み、串刺しにした。――即死だった。
楓はその結果を知ると、体勢も変えずに泣き明かし、気が付くと泣き疲れて眠っていたらしく、目を覚ますと既に朝だった。
楓に、休む時間など与えられなかった。