飼い主

第9話 飼い主

 その日、治は決定的なミスをした。

「娘をよろしくお願い致します、柊木さん!」

 病院でベッドに横になる娘と、頬のコケた両親。

 それを見て、治は悟った。

 ――食うものも食わずに用意した金だ、と。

「なあ、安土さん。こんな人たちからも金を取るのかよ?」

「ええ。皆、平等に。――とは言え、処置も施せない人もいますけど」

「病気が治っても、食うものも食えずに苦しむだけじゃ、意味ないだろ!」

 隼那は、スゥーッと目を細めた。

「ならば、治療を施していただかなくて結構です。

 申し訳ございません。当方の手違いで、本日、治療は施せません。

 後日、改めてお伺い致しますので、私はこれにて失礼致します」

「そ、そんな……」

 その隼那の発言に、治は仰天した。

「見捨てるのかよ!

 もう分かった。お嬢ちゃん、俺が必ず助けてやるからな!」

 そう云って、治は患者の女の子の手を握り――装着してもいないのに『Swan』を発動させた。

「はぁーっ……。

 まさか、『+付き能力者』だと、悟られているとはね。

 契約違反だけど、仮契約だと、そう強くも言えないのよねぇ……。

 せいぜいが、クビにする程度だけれど――」

 回復した少女と、喜びを露にする治。

 隼那は、この場に居る事も無粋、と判断してテレポートでその場を去った。

 治は、ソフト無しで病気を治療できる能力と引き換えに、患者の情報源を失った。

 そして、治は親子から90万円だけ受け取って、病院中の患者を悉く治そうとし――エネルギー切れで意識を失った。

 幸いにはココは病院で、退院する患者が多数居るのだ。

 治は、法外な治療費を請求され――そして、病院と契約し、病院の犬と成り下がった。

 否、飼い主が『クルセイダー』から病院に変わり果てただけであろう。

 そして、病院は難病患者を募集し、治に可能な限り、治療を施させるのであった。