飛車

第36話 飛車

 魔法機部。

 今、ソコの一部の者たちによって、とんでもない物が作られようとしていた。

「やあ、デッドリッグ。研究の方は順調だよ。来年の学園祭では披露出来そうなペースだ」

「ありがとう、アダム。

 ところで、新たなコアの案が、三つ程あるのだが、相談に乗ってくれないかな?

 あと、女子部員に女性陣への説明をお願いしたい」

 アダム・フェイト=スミシーは、関心深げに。

「ほほぅ……、サーティーン・コア・システムか。

 いっそのこと、『キング・コア・システム』にして、頭文字を取って、『KCS』と略した方がウケる気がするのだが、どうかね?」

「ああ、それで構わない。

 で、コアの現物は、後日持ち込む。

 三つのコアと、その概要を話したい。

 その三つのコアと云うのがだな……──」

 二人は別世界に旅立って、残された女性陣に近付いて来る女性が一人。

「あらあら、兄上ったら、また熱を上げて。

 スミマセンね。あ、私、マダム・フェイト=スミシーと申します。

 よろしくお願い致します」

 兄妹なのだろう、二人は良く似た見た目のイメージがあった。

「速度は出ない設定なのですけれど、試験機に乗ってみたいと云う方はいらっしゃいますか?」

 6人全員が手を挙げた。

「フフ……。なんだかんだ言っても、皆、空を飛べるとなったら、興味が湧くか。

 あー、アダム。一つ思い付いた。

 バランスコア。あっても良いとは思わないか?」

「むー……それでは、『キング』の名は冠せられませんね。

 大人しく『フォーティーン・コア・システム』と呼ぶことにしましょうか。略称は『14CSイチヨンシーエス』ですかね?

 しかし、コアの位置関係を制御するシステム作りは難しそうですな」

「試作機でも飛べてはいるんだろう?

 現時点で、定員は何人だ?」

「二人、ですな。

 殿下は操縦は覚えていましたな。女性陣を一人ずつ順番に空の旅へとお誘いしては如何ですか?」

「そのつもりだ。用意してくれ」

「承知しました」

 アダムの指示に従って、魔法機部の部員がいそがしく動き回り、飛車の試作機が用意された。

「皆さま、シートベルトをお忘れなく!

 殿下、試乗の用意は出来ました。ですが、余り高度が出ないように調節してあります。

 『空を飛ぶ』と云う爽快感は感じられないかも知れませんが、テストコースを一周飛んで参られると良いかと思いますが」

「成る程。そうするか。

 ローズ、乗るぞ!」

「え?あ、はい!」

 そこからは、6人のヒロインと順にのドライブデートだった。

 しかし、試乗と云う事で、乗った感想や不満、こうして欲しいと云う要望を出すよう、アダムからアンケートを取られた。

「ギアコアがあれば、急加速する事も無くなるから、『14CS』はもっと乗り易くなる筈だ。

 コアの用意には、数日待ってくれ。コアの本体は比較的簡単に出来るのだが、そこに刻む『龍血魔法文字命令文』を描くのが時間が掛かるんだ。

 幾つずつあれば良い?」

「取り敢えずは一つずつで構いませんよ。

 新たな試作機を作る訳ですし。

 あと、『龍血魔法文字命令』は文を読めば再現が可能ですから、無地のコアと云うのも、幾つか用意していただければと」

「判った。あと10個ぐらいは近い内に持ち込む。

 頼むから、技術の流出は無いように警戒してくれよ」

「ええ、勿論ですとも」

 立場上、言葉遣いにはお互いに気を使っているようだが、仲の良い友人ですらありそうな様子だった。

「試乗準備出来ましたー!!」

 部員のその声に、デッドリッグとローズが動く。

 一周400メートルほどのテストコース。そこを、割とゆっくりとデッドリッグとローズを載せた飛車は飛んだ。

「殿下。これはもしかして、最低限には馬車の代理を果たしてしまうのではないですか?」

「代理とは何だ。もっと画期的な魔法機だぞ?!

 量産されたら、乗車ルールの厳罰化をする必要が出て来る、ハイリスク・ハイリターンの魔法機だ。

 因みに、特許は取ってあるが、新しく4つのコアを発案した事で、更なる特許の取得の必要が生じる。

 フフフッ。コレは儲かるぞ!」

 幸いにして、その会話は飛車の車内で運転中であったが、余人に聞かれたら、大問題となる発言であろう。

 そして、飛車を専門に扱う会社が、魔法機部の部員の卒業後、建てられる事も、デッドリッグの想定では当然の結果だった。

 全員が試乗を終えた後。ヒロイン達の活躍で、飛車を造って売る専門の会社の設立に打診が為され、少なくともアダムとマダムは乗り気であったようだった。

 それが、世界をどれだけ変える会社になるのかを、この時点で、前世の記憶持ちだけがその飛んでも無さを理解しているのだった。

 当然、アダムとマダムがその功績だけで貴族の当主として陞爵しょうしゃくされることを、当人達は予想だにしなかったのだった。