第53話 露対策
「じゃあ、『Dark-Lion』の量産を、大和カンパニーに依頼して大丈夫?」
「ええ。但し、対価は支払っていただきますけどね!」
紗斗里は、単価を1万円程と考えていた。
個人用核対策が、一人一万円で出来るのならば、安いものだ、等と考えていた。
「でも、その単価では国民全員に行き渡らせるのは困難ですねぇ……」
幸い、疾刀は髪の毛を腰程まで伸ばして束ねていた。髪の毛の量産は、十分可能に思われた。――十分足りる、とまではいかないが。
「一万円相当の働きをした者には、一人一個、無料で提供し、その費用は『クルセイダー』が背負う、と云う形でどうだろう?」
恭次は、軽々しくそんな事を口にした。
「その対価、支払える自信はありますか?」
「正直に言うと、ねぇな」
無理は言わない。ココは素直に正直に言うべきところだ。
「ソレは、国民全員に『Dark-Lion』を用意する事が困難ですから、大した問題にはならないでしょう」
「あ?ああ、そうかもな」
「恐らく、数十万個を生産するのが精一杯です」
「――あ?」
恭次はその余りの数の少なさに驚いた。だが、髪の毛1センチを必要とすると考えれば、大体その位の数字になってしまう。
露対策。ただその一事を、『侵略の為の戦力を永久に放棄する』と云う憲法の条文が、邪魔をして来る。
「――暗殺者を仕向けたらどうかしらね?」
隼那が、根本的な解決の策を捻り出した。
「暗殺合戦になるのが嫌だな。仕留め損ねた時の事を考えると、ソレは避けた方が吉だと思う。
それに、影武者が何人居るのかも判らん。
次の首相が、『北海道の領土化案』を放棄してくれたら、今の首相が任期中に北海道侵攻まで手を打てなければ、ソレが最善だ」
「『たら・れば』論を広げている余裕は無いと思うんですけどね」
疾刀は現実的な意見を述べた。
だが、対策案たり得ない。
「今は批判を止めましょう。
ブレインストーミングです。思い付いた案を挙げるだけ挙げて、その中に名案を見出しましょう!」
紗斗里が、急に方針を決めた。だが、そうでもしなければ、名案は挙がりそうも無かった。
「でしたら、世界が滅ぶのは気にしない事にしましょう!
日々、世界はある意味、滅んで行っている。その度に、再生するだけで。
ホラ、今この時にも、世界は滅んでいる。
畏れるべきは、滅んだ世界が再生出来なくなる事です!」
「成る程な。
じゃあ、あの阿呆、もう死んでも良いんじゃねぇ?
目標未達?そんなの気にしなくていい。
幸い、今のアイツには、自力で死ぬ方法を思い付いているしな!」
「実行出来ないでしょう。母親を見捨てられない。
――と、コレは批判になるから発言を取り消します」
「本当に、世界が一度滅んでも良いのかもな。
太陽と海がある限り、生命は再び発生する。
人類が一度滅んだ後、再び現れれば、現代の科学技術が正に『魔法』に見える。
そしたら――終末時計も、少し逆回りして、時の余裕を持ってくれるのかも知れないぜ?」
「出来れば、人類の再誕の前に、小惑星の衝突が済んでいてくれることが望ましいですね」
「若しくは、小惑星の衝突で、一度人類は滅ぶのではないか?」
「或いは、その可能性からの回避の為に、核弾頭は存在しているのかも知れないわ」
四人は口々に意見を出し合う。
だが、未だ露対策の案が出ていない事は気にせず、未来へと希望を述べて行くのであった。