間違ったヨゲン

第43話 間違ったヨゲン

「新たなサタンの誕生の地が判ったわよ」

 隼那は、確信を得ているが如くそう言う。

「露よ。

 余程、日本の領土が欲しいと見えるわ」

「でも、アイツは中の領土を欲してはいないだろう?」

「ゲーム内で、何度も強固な国を築いて来たわ。

 だからこそ、今の中の発展があるのでしょうけれど」

「あー、確かに。

 一度は曹操すら配下に引き入れたよな」

「孤立させて。兵力を奪って。ワザと勝ち戦で撤退して。そして降伏勧告で、ようやく配下にしたのが曹操よ。

 逆に言えば、曹操はその位しないと配下になんてなる器じゃない」

「最初から知力100の軍師とか、バグ技に近いプレイングだよな。

 多少低くても、90台後半なら、『孫子の兵法書』を与えて実質知力100にして。

 財力を手に入れて。米のトレードで利益を上げて。

 現実なら、古米のトレードなんか、利益の出せるトレードじゃないぜ?

 生産力と共に商業力も高めて。税で稼いで。

 配下は、敵からスカウトすると云う……。

 そして、配下には報酬を与えて忠誠を得て。

 まぁ、『董卓』とまで呼ばれる、あの暴虐君主のやり口を考えれば、ヌルいよな。

 何せ、税率を100%にして、得た兵糧を全部売って、その金で買える限りのアイテムを全部買って、全財産を持ったまま国を捨てて新天地でやり直しだからなぁ。

 ゲーム内とは言え、そこまでの悪逆非道を尽くした奴ァ、ほとんど居ねぇだろう」

「私たちにとっての問題は、そんなところには無いんだけどねぇ」

 隼那は、現実逃避から一歩、戻って来た。

「恐らくは、『七大魔王』として『神の数字』を使っている以上、ソレラは神の持つ一面に過ぎなかったのよ。

 その中で、教祖が『この一面はゆるせない』と云う側面を七つ挙げただけなのよ。

 でも、どうして人は『七元徳』とか『七つの美徳』と言われる情報を、こんなにも広めなかったのよ!

 ソレが正解だから、ツマラナイってこと?!

 なら、間違った事をするのが楽しいってこと?!

 そんな楽しさなら、私は要らない!」

「詰まるところ――」

 恭次は、隼那に向かってこう言う。

「『七つの大罪』は面白い、ってことか?

 確かに、日本人に敬虔なキ〇〇ト教徒は少ないから、『七つの大罪』と言われても、そんなものを信じてなんぞいない、って事か?」

「――!!」

「お釈〇様こそ、ルシファーの極みだしな。

 生まれてすぐに、『天上天下唯我独尊』?

 違うだろ。『天上天下皆平等尊』だろ?」

「罪を憎んで人を憎まずとも言うものね。

 でも、お釈〇様は、巨大な数の単位を定めた功績があるわ。

 ある意味、法を定めたわ。超巨大数の法則を」

「ソレは、ある意味、魔法なんだろうな。

 お釈〇様をキ〇〇ト教徒がルシファーだと見做す限り」

「『魔王が定めた法則』って云う意味?」

「ああ。間違いないだろ?」

「そうね……」

 隼那は、曖昧あいまいうなずいた。

「他の宗教の教祖を『魔王』だなんて見做す宗教が、『傲慢』で無い理由は存在しないけれど――」

 一度区切って、隼那は言葉を整えて言う。

「所詮は、宗教は狂気の断片なのよ。

 子供を産む為に必要な行為を『大罪』の一つにするだなんて、狂気以外の何物でも無いわ。

 それでも、お釈〇様の教えは、今年いっぱいは加護を齎してくれるわ。

 問題は、『艱難辛苦かんなんしんくの7年』なんて概念を遺したキ〇〇ト教の方よ。

 未だ、社会は7割程度しか仕上がっていない!

 なのに、まるでコロナ禍から始まった7年が、『艱難辛苦の7年』であるかのように、次々に災害が起きる。

 でも、再誕のヨゲンは外れると云う情報も得ている。

 だけど、ソレは今周期では無いと云うだけの情報でしか無いのかも知れないわ!」

「なら、今回のこのコロナ禍は、『艱難辛苦の7年』では無いな。

 恐らくは、『艱難辛苦の7年』、ってのは、もっと酷い事態なんだ。

 だからと云って、コレ以上の災害が起きるだなんて事態、陥りたくないものだがな。

 全く、ソレまでの縁起を良くする為だったとしても、『艱難辛苦の7年』なんて情報、遺しちゃいけないだろうが。

 ヨゲンのシステムの非理解者め。ヨゲンすれば何でも当たる訳じゃねぇ、って事を思い知れよ!

 ――ったって、遥か過去の人間に言おうとしても、無駄なんだろうがよ」

「そうね。無駄なのかもね……」

 隼那は、急に天を仰いだ。

「どうか、私たちの行いが、無駄になりませんように……」

 隼那の祈りの言葉で、二人の会話は一旦の落ち着きを見せたのだった。