第21話 錬金術の成果
「こんなウィルス、誰が何の為に……」
「錬金術の、研究の成果じゃ。
結果として、儂と李花ちゃんの二人が、追求していた目的の内の二つを、成し遂げた事になる。
これで、『賢者の石』が精製されていれば、目的の全てを成し遂げた事になるんじゃろうが……。
『賢者の石』という存在は、余りにも都合が良過ぎるアイテムじゃ。
恐らくそれは、永遠に成し遂げられん」
「錬金術、ね。
確かに、一円玉は金に変えられるけど」
「慣れれば、他の金属も変えられる筈じゃがな」
「硬いから、嫌!」
なら、一円玉は柔らかいのだろうか?
「贅沢じゃのう」
「どこが?
たかが、一円じゃない。日本で、最も安い硬貨よ?……っと、下、済んだみたいだわ」
伯爵の耳も、扉が開く音をちゃんと聞き取っていた。二人とも、地獄耳と言えるだけの聴力を誇る。――いや、それ以上。
「行くよ」
「分かっとる」
緋三虎たちの方も、李花の聴力を知った上であって、扉を開き応接間で待っていた。
「良いお父さんじゃない」
「……うん」
躊躇いがちに、緋三虎。
そこにパフェが。
「私たちもこういう男、見つけようね」
「それは勘弁」
今度は即答であった。
「何でだよぉぉぉぉ!」
喚く虎白。父としては認められても、未だ男としては認められていないらしい。
「我ながら、格好良い事したと思っていたんだぞ?」
「……家での父さんの有り様、今、ココで話しても良い?」
険しい顔で考え込んだ挙句。
「……勘弁してくれ」
虎白は白旗を揚げた。
「虎白オジサン、なんか、緋三虎の前だと、らしくないよね」
「いや、……話せば長くなるんだ。……話さないけど」
「話せばぁ?」
「……緋三虎がイジメる……」
遂にはしゃがみ込み、イジけ始めた。
「緋三虎。許してあげたら?」
「付け上がらせたくないの。だって――」
「言わんでくれぇぇぇぇ!頼むぅぅぅぅ!」
どうやらパフェの作戦も、刹那の間の効果しか、発揮しなかったようだ。
「……良いでしょう。今日は、父さんの良いトコ、知ったから」
「おお!黙っといてくれるか!」
「李花。二人っきりになってから話すからね♪」
「うぉぉぉぉ!
母さん……俺は、娘を育てる事に失敗してしもうた……。許してくれ……!」
事情は何となく、聞かなくても分かりそうなものだ。
「こんな感じなの?」
「今日はマシな方」
「……確かに、これならウチのダメオヤジと取り替えたくもなるわ」
「何ぃ?」
過敏に、虎白は反応する。
「二つ、気になる事がある」
「何でしょう?」
「まず1つ!」
虎白が突き立てる、人差し指一本。
「ダメオヤジというのは、李花ちゃんの父親である、結城 狼牙の事か?」
「そうよ」
「違う!奴は……奴は……良い男なんだ!」
「……そう。
で、もう1つは?」
「取り替えたいと、緋三虎が言ったのか?」
「言ったよね、緋三虎?」
「ええ。ずぅーっと前から、思っていましたわ」
「うおおおお!
何故だ!?何故、俺たちが評価されない!?
狼牙の野郎なんて、物凄ぇ良い男だと言うのに……!」
「そうよ、李花。狼牙オジサンは、凄く良い人なのよ?」
「そうかなぁ……」
今、目前にいる比較対象は、虎白。
「……物凄く悪いとは言ってないよ?」
「今、視線が気になったぞ」
「気のせいよ。ね、緋三虎?」
「はっきり言ってあげないと、理解しないと思うから、言ってあげて。
ヤクザなんて、人間のクズだ、って。
娘の私が、社会的に立場無いし」
父親に辛口なのは、パフェと緋三虎の共通点らしい。半端ではない、激辛であった。