釣果

第19話 釣果

 早朝4時。

 俺たちは、釣りを始めた。

 朝7時頃までの、所謂『朝マズメ』と言われる時間を狙って、釣り糸を垂らす。

「寒いっ!」

「ホラ、ライフジャケット。結構暖かいぞ」

 用意してあった、防寒目的も含むライフジャケットを神菜に差し出した。真夏とはいえ、夜明け前の海は寒い。

 最初1時間程は、殆どアタリも無かった。それでも、一匹ずつ釣れて、一応の満足をしていた。

 そして、朝5時頃。アタリのピークがやって来た。

 もう、入れ食いだった。

「ホラ、こんな大きな魚が釣れた♪」

「おう、カレイだな。確か、この鰈は刺身にしても美味しい筈だ」

「それは、朝ごはんが楽しみね♪」

 そんな他愛もない言葉を交わしながら。

 お互いに、釣果ちょうかを競った。

「俺の方が、ちょっと負けかな?」

「私の方が、大きさも数も大きい?」

「お見事!『女王』は釣りでも強かった!」

 等と言って釣りは終えたが、神菜の『えさ付けて』とか『釣れたから、クーラーボックスに入れて』とかって我儘ワガママを、全て応えての結果だ。釣果としても、少し負けている位で丁度いい。

 それにしても、無意識って恐ろしい。

「魚たちも、私の前に平伏したのかしら?」

 呑気に言っているが、内容は空恐ろしい。

「いや、単に釣れ易い時間を選んだだけだから」

「ありがとう。楽しかったわ。何から何まで用意してもらって」

「その言葉が何よりのご褒美ほうびだ」

 魚は、食堂で調理を引き受けてくれる窓口がある。

 そして、早速の朝飯だ。

「「いただきまーす」」

 釣りたての鰈は、コリコリとした食感が楽しくて、そして、とても美味しかった。

「……美味しいわ」

 その味には、神菜も驚くほど、新鮮で脂も乗り、まるで、その味までもが釣果に思えてしまう程だった。