選択肢

第7話 選択肢

「ここだ」

 辿たどり着いたのは、金庫のような扉で護られた部屋だった。
 
「――人間の力で開く扉では無いな」

 その扉の大きさは、カメットがそう云うだけの大きさがあった。
 
「X機関よりも、強固に護られている。

 『αシステム』のJOKERシステムの威力に耐えられる強度を与えた。
 
 事実上、俺の手に依らねば、破壊されることは不可能……だった筈だった」
 
「歯切れの悪い言い方だな?」

「どこぞの馬鹿が、禁呪を解読したらしいからな」

 一人、スターだけは扉に近寄ろうとしないで、階段を降りたところで待っている。
 
「――何故、あ奴はこちらに来ない?」

「すぐ分かる」

 ムーンが扉に近付き、扉に円を描くように嵌め込まれた、正八角形を描くように配置された八つの宝玉の、一つに触れた。
 
「天の賢者」

 パチィンッと、火花が散った。
 
 気付けば、ムーンの背に一対の光の翼が生えている。
 
「地の女神」

 一つずつ宝玉に触れては力を放ち、その度に光の翼が一対ずつ増えていく。
 
「風の英雄」

 強い風で、リックが転ぶ。
 
「成る程な」

 カメットは、リックを拾い上げてスターの傍まで避難した。
 
「この扉は、彼にしか開けないの」

「そんなものが、何故こんなところに?」

「ノトスの噂を、どこまでご存知?」

「――そうか。『αシステム』開発の第一人者か。

 復元には成功していないと聞くが」
 
「X機関も、彼の研究の結果、今の十分の一のサイズで作る事が、理論的に可能だそうよ。

 それが、現在の技術の最先端。
 
 個人用となるには、あと100年は研究が必要と言っているわ。――彼があと100年、生きられたらね」
 
「……生きられなかったら?」

「あと500年。

 あと二つね」
 
 冷たい風が流れ、ムーン=ノトスは唱える。
 
「光の僧侶」

 視界を焼くような光が放たれ、視覚がしばらく麻痺する。
 
「闇の盗賊」

 かと思うと、辺りが闇に包まれ、視力を失ったのかという錯覚に襲われる。
 
「月の導き、八芒の星よ。今ここに全てを統べて、封印よ――退け」

 ゴゴゴゴゴと地響きが鳴り渡り、視界もゆっくり取り戻される。
 
 扉は、開いていた。
 
「カメット、来い」

「む――ウム」

 部屋の中には、主に革鎧のようなものが並んでいたが、カメットが最も目を引かれたのは、部屋の中央・台座に突き刺さるように佇んでいる、大剣だった。
 
 刃渡りも見えている限りですら、1メートル半ほどもある。
 
「その剣が抜けるならば、くれてやる。

 適性のある奴以外には抜けないよう、封印を施してある。
 
 抜けないのなら、他を探す」
 
「――剣の名は?」

「メテフィーオ」

 カメットは斧を抜いた。
 
「相棒、暫しのお別れじゃ」

 武器状のαシステム(ダミーの可能性も有り得るが)も少しあり、そういう品を収める為の棚もある。そこに、斧を置いた。
 
「そこに置かれても、困るが」

「ム……。抜けたら、手を考える」

 台座に上り、両手で柄を握ると、オーダーメイドのようにピッタリのサイズに思われ、カメットは息を吸った。
 
「――炎の戦士、『メテフィーオ』。我と共に行かん」

 さほど力を込めたとも見えない。しかし、メテフィーオはゆっくりと全貌を現せた。
 
 刃渡り、2メートル。カメットの身長を以ってすら、やや大きい。
 
 ムーンは近付いて、刀身の柄に近い辺りに埋もれている宝玉に、手を触れた。
 
「これが、『αシステム』の核だ。傷つけるなよ。

 ちなみに、『炎の戦士』というのは正解と言える。
 
 火属性の基本コアを積んでいる」
 
「ウム。……あの斧はさて、どうするか」

「売れ。リックを呼んで来い」

 カメットと違い、リックの『αシステム』選びは、中々大変な作業だった。
 
 何しろ、身体が小さい。鎧状のPECSは、全てサイズが合わなかった。
 
 となると、武器状のものを選択するか、と考えられたが、武器として、リックがまともに使えるものが無かった。
 
「直感で良い。何か、選べ」

「良いの?」

 リックは部屋中を見て回り、5分ほどで一つ候補を選んだ。ムーンの予想より早かった。
 
「これ!」

 鉢巻状の布に、八つの宝玉が縫い止められているものだ。ムーンも、似たようなものを頭に装着している。
 
「……良い選択肢だな。出力は低いが、構わないか?」

「名前は?」

「ベルクライト。

 得意属性は地。『地の女神』に近いが、それより出力は低い。
 
 ……デメリットだけとは限らないが」
 
「十分だよ。戦うつもり無いし」

「なら、構わない。

 では、入学手続きに行こう」
 
「何処に?」

 カメットの疑問は当然のものだが、答えも当然のものだった。
 
「ココ、だ」