迷宮に入る目的

第14話 迷宮に入る目的

 第二層を踏破した時。

 四人の内、何名かにテンションの低下が見られた。

 ヴィジーは即座にそれを察知し、こう言った。

「良し!第二層も踏破したし、一度帰ろう!」

 本当は、アイヲエルの修行の事を考えたら、もうちょっと長く迷宮内を潜っていたかった。

 だが、死人を出しては本末転倒だ。

 しかも、ミアイにすらテンションの低下が見られたのだ。

 ミアイを危険に晒す訳にはいかない。

 アイヲエルには未だテンションの低下は見られないのだが。が、少々興奮気味で、違う意味で休憩が必要そうだった。

 罠を排除したことで、ノイズも無くなった。

 転移魔法で一発で帰還が可能だった。

「すまないな、アイヲエル。お前はもうちょっと潜っていたかったろ」

「いえ。暴走気味だとの自覚があったので、助かりました」

 自覚があったのなら言えと、ヴィジーは思ったが、ココは自分で言い出すのを待つのは悪手だと思い自ら言い出すことにした。

「自覚があったのなら、サッサと言え」

「スミマセン。自覚したのが最近で……。気のせいかなとも思ってしまったもので」

 ならば仕方がない。だが、敢えてヴィジーは言う。

「自覚を覚えた時点で、言い出すんだぞ?

 儂は傍から見た評価を下してやるからの」

「スミマセン、助かります」

 兎も角、一旦帰って宿に泊まる。ミアイは早速風呂へと急いだ。

「待つのです、姉御!」

「一緒に行くのだす、姐ビン!」

 竜人二人が付き従ったのは愛嬌か。

 ついでに、フラウも送り出すべく、声を掛ける。

「え?いえ、私は後で結構です」

「一緒に入ってきて貰った方が、用事が纏めて片付くから、好都合なんだ」

 そうまで言われては、フラウも断れない。

「儂らも行くぞ、アイヲエル!」

 この宿には男風呂と女風呂に分かれているので、同時に別々になって風呂に入ることが出来るのが、この宿を選んだ原因でもある。

 その分、割高であるが、国から支給された支度金には十分な余裕がある。管理しているのはヴィジーだ。

 風呂で極楽を感じてから、全員で昼飯を食べ、そして、全員で防寒具の制作を頼む為に防具屋に向かった。

 ホワイトウルフは、充分な数を狩っている。あとはサイズ計測をして、オーダーメイドだ。

 金は、ホワイトウルフの牙を売却した金を主として支払う。錬金術で、鏃の素材としての需要があるらしい。肉も多過ぎるので大分売り払った。

 一行に弓遣いは居ない。全く居ないのも問題だなとヴィジーは思うが、その分、矢を消費する経費が掛からないと云う利点もある。

 防具屋に並んでいる防具は、ほぼオーダーメイドされた品の完成品で、買うことはまず出来ない。一部、量産している品も展示してあるが、オーダーメイド出来る余裕のあるパーティーには需要の無い品ばかりだった。

 ホワイトウルフの毛皮を持ち込んでの、オーダーメイド。本来なら、一着ずつ注文しようと考えていたところを、纏めて注文する破目になったのだから、当然時間が要求される。

 それでも、無ければお話にならない品だ。全員の体型を測定すると、一ヵ月の予定で注文を入れた。この際、半額は前払いだ。

 引換証を受け取って、店を出る。すっかり日が暮れてしまっていた。もうかとも思えてしまうが、夕飯の時間だ。

 夕飯を済ませると、各自自由時間で、ミアイは再び風呂に向かい、竜人二人が追った。

 フラウは本音で、今日の風呂はもう充分だとの発言があった。ので、ヴィジーが誘い、アイヲエルを交えて、カードゲームで時間を潰した。

 三日ほどは、英気を養う時間だ。リラックスすることが重要となる。

 結果、フラウはのめり込んで、毎日、アイヲエルとヴィジーに勝負を挑んだ。当然、竜人二人も交じって来る。

 ミアイは、読書して時間を潰していた。読んでいるのが魔法の研究書と云う辺りが、ミアイらしいと云えばミアイらしい。

 ヴィジーやアイヲエルの魔法の使い方は、感覚派だ。感じるままに魔力を行使して魔法を行使する。だが、ミアイは理論派だ。魔法を理論から学んで行使する。

 故に、ミアイは魔法使いとしてパーティーで最有力だ。

 フラウは行使するのが『回復聖法』なので、また別系統だが、『回復聖法』の理論と云うのは、未だ世界的に開発途上にあった。

 何故ならば、圧倒的に行使能力者が少ないからだ。だが、ミアイの独自の開発に因ると、『回復聖法』に於いても、『魔法』の理論に通ずるところがあった。

 現に、ミアイは『回復聖法』を行使出来る。フラウほど得意ではないが。

 一方、竜人二人はどうなのかと云うと、ドラゴン・ブレスを吐く程度の『龍語魔法』は行使出来る。複雑なのは未だダメだ。

 そして、ミアイは『龍語魔法』に関しても、一家言いっかげん持っていた。彼女からすれば、『龍語』を話せる竜人二人は、研究・開発の垂涎すいぜんの的だった。

 故に、迷宮探索にも付き合っている。どこかで、研究の成果を発揮する機会が無いだろうかと。

 だが、最初にテンションが下がるのもまた、ミアイだ。後衛故、多少は見逃せるが、二人目、即ち大抵の場合、フラウまでがテンションを落とすと、ヴィジーは危機感を抱いて撤退と云う結論を出していた。

 この二人のやる気が、今後、必要になって来る。

 この二人に、ヤル気を出させる方法をアイヲエルは検討した。

 だが、何も思いつかない。

 そりゃそうだ。二人は迷宮探索を望んでいないのだから。

 そこで、アイヲエルは情報収集を始めた。

 迷宮では何が取れるのか。宝箱には何が眠っているのか。

 結論、迷宮でミアイとフラウのモチベーションを引き出すアイテムは、迷宮深層に潜らなければ手に入らないことだけは分かった。

 おっと。迷宮に対する警戒も忘れてはならない。

 ともあれ、アイヲエルには迷宮深層にまで潜らなければならない理由が出来た。

 もう否応なく、アイヲエルのモチベーションだけが異常に上がるだけなのだった。

 尚、迷宮深層には、金銀宝石が眠っているとの噂なのだった。

 それが、ミアイやフラウの気を引けるものなのかは分からない。

 兎角、それを手に入れてみないと分からない。

 だからこそ、アイヲエルはより一層、迷宮深層を目指すようになる。

 だが、未だ迷宮深層には潜らせられないと、ヴィジーが考えていることは、アイヲエルは未だ気付いていなかった。

 先ずは、迷宮浅層の罠の除去。コレも、いい金になるのだから、ヴィジーは全て駆逐くちくするつもりで事に当たるのだった。