第36話 賭け
「おうおう、向こうは派手にやってるなァ。
俺に、あんな真似は出来ねェが、テメェを圧倒すること位は出来るぜ、芳一」
「ぶ、武玄がいれば……」
「ああ。それなら、対等だったな。もしかすると、俺の方が不利な位だったかも知れん。
しかし、戦いに『でも』『もし』は禁物だぜ?戦いは、結果が全てだ。
安心しろ。武玄も近い内にお前と一緒の場所に行く。――地獄にな」
「お前もだよ、虎白。組長は、決して負けない。必ずあの男を殺し、お前も殺す。
問題は、その時まで俺が生き残れるかどうか……。
あの男を組長が殺すまで、俺は生き残らなければならない。相手がお前だと、苦戦しそうだ。
……瞬発力では負けるが、持久力では負けない自信がある。
この戦いは、長引かせなければならない。長引かせれば……」
「おいおい、そのセリフ、言うことが間違っているゼ。長期戦にしたかったら、別の話題で時間稼ぎをするべきだ。
それをわざわざ、『この戦いは長引かせなければならない』だと?
それを知らせてどうする。
俺は、頭は硬さ以外に自信はねェが、それでも、そんな内容のセリフは言うべきじゃねェってこと位、分かるゼ。
……で、それなのに、何で俺がお前のお喋りに付き合っているかと言うと……。
――自信があるんだよ。俺が組長に勝てる自信じゃなくて、あの狼牙って野郎が、組長に勝つっていう自信が。
賭けても良いんだが、――もうすぐ死ぬお前と、賭けをしても仕方が無い。
お喋りはこの位にしようぜ。さあ、かかって来やがれ!」
「断る!」
芳一がそう言うと、互いにクックックと笑った。
「やっぱりか。
そりゃそうだよな。戦いを長引かせたい奴が、お喋りの続く中から、戦いに移行したくないのが当然だよな」
「俺としては、賭けをしたいね。命をチップに。
負けた方は、無抵抗で殺される。
どちらにしろ、向こうの戦いで負けた方の味方は、殺されるに決まっている。
なら、お互い、死にたくは無い訳だし、そういう賭けをすれば、向こうの勝負で勝った方の味方は生き残れる。
特に俺は、変身前のおまえの動きにすら、ついて行けなかった訳だから、勝負は組長に任せたい。
……どうだ?受けるか?」
「へへっ、俺、賭けって大好きなんだよな。そう言われると弱いねぇ。
賭けなかったら、ほぼ確実にお前は死ぬことになっていたから、一見、賭けても得をするのはお前だけ、って見えるな。
確かに俺も、痛い目に合うのはご免だからなぁ。
無抵抗でお前を殺せるって点が気に入ったよ。俺にも、狼牙が勝つって自信があるしな。
いいぜ。賭けよう。
狼牙ァーッ!負けンなよォー!」
ここに、虎白の戦いが終わった。