第30話 買い物
「おおおお……!初めて見た、100ドル札の札束なんて……!」
早速、エンジェルの翼を換金した一行は、特にトールが、その報酬に喜んでいた。
賞金は、アイオロスとクィーリーの二人と、トールとフラッドと云うグループ分けをして、二分した。
そして、トールとフラッドは所持金が残り僅かな為、早速、銀の延べ棒を現金にして貰ったのだ。
「これで、念願の金属鎧が買える……!」
「き、金属鎧……。
重くて身動きが不自由になる分、お勧め出来ない装備なんですけどね」
「良いのよ、コイツの場合は。
あの大剣ですら、『未だ軽い』と言ってのける奴なんだから。
有り余った筋肉を効率的に使うには、多少重い位の装備の方が適しているんですもの。
ねぇ?」
フラッドが呼び掛けても、トールは店頭で金属鎧を探すのに夢中で、半分しか話を聞いていなかった。
半分聞いていたと分かったのは、一応、反応を示したからだ。
「――ん?おう!
店長、金属鎧は置いてねェか?」
「……俺ァ、店長じゃないんだが……。
まあ、金属製の胸当て位なら、あるにはある。
――あるんだが……、アンタには小さいと思うんだがねぇ……」
「見せてくれ!」
「ちょいと待ってくれ」
店員が奥に引っ込んでいる間に、アイオロスはフラッドに声を掛けた。
「あなたは、何か買わないんですか?」
「そうねぇ……。弓矢、なんかがあると良いんだけど……」
「――通用しませんよ、エンジェルには」
「誰も、そのまま使うとは言っていないわ。
魔力を込めた矢を放てば、本格的な防御魔法を使われていない限り、並のエンジェルには十二分に通用する筈よ」
「そうかなぁ……」
言いながら、アイオロスはクィーリーの方を見ながら、「弓矢なら、クィーリーに持たせると似合いそうだなぁ」などと、実用性を考えずにイメージだけで考えていた。
「……どうかしましたか?」
考えていて、彼女にそう訊ねられると、アイオロスは「何でも無い」と誤魔化す。
「これなんだが……」
店員が持って来た胸当ては、明らかにトールには小さすぎる。
「他は無いのか?」
「無いねぇ。防弾チョッキならあるんだが」
「――エンジェルに対して、有効なのか?」
「分からん。
ソレに関しては、エンジェルを狩ったと云うあなた方の方が、むしろ詳しいのでは?」
トールはアイオロスの方を向く。首は横に振られた。
どちらにしろ、金属鎧ですら通用しないのだから、鎧はよっぽど優秀な、それこそマジック・アイテムでも無い限り、意味が無いのだが。
「諦めなさいよ、トール。
ねぇ、オジサン。弓矢なんてのは置いてないの?」
「アーチェリーかい?とびきり良いのがあるにはあるんだが、ちと高い。
10万ドルだ。が、魔法の矢を無限に放てる優れものだ。
ま、威力は大したものじゃ無いんだがね。
ホレ、そこに飾ってあるその弓がそうだよ。
ほんのつい先程、デビルらしき男がソレを持って現れて、『他のデビルに使って欲しいアイテムだ』そうだから、買い取ってやった代物だ。
威力を知りたかったら、向こうの木の的を狙って試し撃ちしてみると良い。
もうボロボロだが、あと一発ぐらいは耐えられるだろうよ」
「じゅ、10万……。流石に、手の出せない値段ね」
フラッドにとっては、そうだ。が、そうではない者がソコには居た。
「クィーリー、あの弓、性能はどうだい?」
「かなりの優れものですね。10万の価値はあるのかも知れません」
「なら、その弓、僕が買った!
クィーリー、君が使うと良い。プレゼントするよ」
嬉しそうなのは、クィーリーは勿論だが、アイオロスの方はそれに輪をかけて。
プレゼントする側とされる側、双方が嬉しいのに加え、プレゼントを喜ばれたことが、嬉しくなった分だけ、余計に。
「――試し撃ちは、買う前に済ませた方が良いかな?」
「いえ、どうしても見ておきたいと云うので無ければ、必要無いでしょう。
エンジェルにも、十分に通用する武器です」
「なら、銀の延べ棒で5本。これで構わないかな?」
一体、どれだけの財産を持っているのか、それだけの大金をアイオロスは惜しまなかった。
「ああ、構わないさ。
毎度ー。
さあ、持って行ってくれ」
店員は、心の中でガッツポーズを取っていた。
通常、マジック・アイテムをパンデモニウムが引き取る際の買値は、売値の半額がデビル間の常識だ。
が、その弓は無限に矢を放てると云う長所と、その余りにも弱い威力という短所とのギャップから、値切られる事を前提として、買値の10倍の値段を付けていたのだ。
これで喜ばない訳が無い。
まさかこの時、その店員がその値段で売った事を後悔する事になるとは、夢にも思わずに。
「店員さん。あの的、どうしてあんなにボロボロなんです?」
「能力と威力を確かめる為だ。
腐ってもマジック・アイテム。そうそう安値で買い叩く訳にもいかない。
能力と威力を確かめさせてもらうのは、高い金を出す方としては、当然の要求だろう。洋弓だけにね。
それで?確かめないのかい?」
「クィーリー。念の為、確かめてくれ」