第38話 謎の声
チッチッチ。人差し指を振りながら、龍青が発する、舌打ちの音。
「常識デ我々ノ能力ヲ考エナイ方ガ良イコトハ、知ッテイルハズデハナイノカネ?
ソレサエ知ッテイレバ、ソコマデノ驚キヲ見セルコトハナイハズダガ」
「ならば、頭は……!」
予備動作が必要な以上、左手で放つ一撃目は躱される予定で投げ、その躱した隙に、右手でナイフを投げた。
だが、予想以上に速い動きで、両方躱される。
「クックック。
腕ノ痛ミガアッタナラ、両方、避ケラレナカッタダロウナ。貴様ハ、初メテノ勝ツちゃんすヲ逃シタノダヨ」
これが二度目であることを、龍青は気付いていないらしかった。
「ソシテソレハ、最後ノちゃんすデモアッタノダヨ。何故ナラバ、私ガサラナル秘メタちからヲ見セルカラダ。
……イヤ。貴様ニハ見エナイダロウナ。
コノ勝負ハモウ、私ノ勝チダ!」
龍青がそう言った直後、彼の姿が消え去った。
「……!」
驚いて、狼牙は周囲を見回す。
「後ろだ、狼牙サン!」
虎白の声が聞こえ、背後を振り向こうとした時には遅かった。首を後ろから両手で絞めつけられたのだ。
「グッ……!」
かなりの力だ。両手で引き剥がそうとするが、それは難しい。
「クックック。
貴様ニハ、味方ニナッテ欲シカッタガナ。仕方ガナイ。脅威トナル前ニ、殺シテオクコトトシヨウ。
……気ガ変ワッタノナラ、話ス余裕ノアル今ノウチダガナ」
「だ、誰が……!」
狼牙は、その瞬間、自分が冷静さを欠いていることを知った。
何のことはない。龍青の手を、手刀で手首から切り落としてしまえばいいだけのことなのだ。
だが、狼牙には未だ、再びの激痛を与えてその隙に、というところまで頭が回るほどの余裕は無かった。
策を思い付いたのなら、冷静さを取り戻した証拠とまで思っていた始末だ。
だが、早速、思い付いた対抗手段を実行する。
「ナ、何ィッ?」
手首から先を切り落とされた龍青は、驚いていたが、狼牙の首を絞める手には、まだ力が加わっていた。
そこは冷静に、手首を切り落とし、取り除く。自分の首まで傷つけるヘマはしない。
「ヤハリ貴様……強イ!
フッフッフ。貴様ヲ味方ニ出来ナイノハ惜シイガ、コレダケノ白熱シタ戦イヲ出来タダケデ、感謝シヨウ。
貴様ホドノ相手ニハ、二度ト再ビ出会エヌダロウナ」
狼牙は振り向いた。……龍青と詩織の距離が近い。注意を自分に向けるよう、目線は龍青に合わせる。
狼牙のバリアは、切ったり刺したりすることに対しては強いが、絞められることには弱いことを思い知らされた。
或いは、龍青の力が強すぎるのか。
まぁ、これも良い勉強の内だ。
『会わせてやろうか、龍青とやら。二度と出会えぬと思う程の実力者に』