第58話 諦め
「うん。スポンサーとの契約が切れる迄は、続けても良いんじゃないかな?」
昼姫の『引退』の選択肢に、老師・岡本はそう言った。
「え?でも……」
「うん、本気で打ち込む気にならなくなったのは判る。
だけど、儂の予想が的中しているなら、君の得ているスポンサー料は、中々得難い金額になっていると思う。
そして、そのCM料としての価値は、そんなに頻繁にプレイしなくても得られると思う。
確か、化粧品関連の会社だったじゃろ?
儂には、『得難い』と云う一点だけ見ても、続けるべきじゃと思う」
「それは……。はい……」
加えて状況を鑑みれば、昼姫は卯月の運転で道場に通っており、駐車場も岡本邸の敷地にキチンと確保出来ていると云う、通勤に近い形での道場への参加も出来ている。
ゲームを何度も繰り返さなければ、昼姫の負担は相当に軽い。
それが却って、家事でもしなければ!と云う気持ちに昼姫はなっているのだが、卯月さんにしてみれば、今は愛の世話をして貰い、家事は将来的な話で良いと思っていたみたいだ。
それどころか、卯月さんは「昼姫さんの分まで稼ぐ!」と気合を入れていたみたいだけれど、昼姫が受けていた化粧品会社からのスポンサー料はそこそこ高い。
下手をしたら、卯月さんより昼姫の方が稼いでいる、と云う可能性もあったのだけれど、金銭の問題をあからさまに話す程、二人は迂闊では無かった。
家事を出来ない分、昼姫は藤沢家へ月5万位の生活費を支払っていたし、卯月さんも金額は定かではないが、親に支払っているそうだ。
このゲームは徹頭徹尾、『皆で仲良くしようよ』と云うメッセージ性を込められたゲームのようだし、『Venues』さんのように特定のプレイヤーを陥れようとすると、順位が下がる。
日本国内にも、ここまでの規模で集ってタイミングを合わせてプレイするなんて条件を整えた団体は居ないようだし、他国も、イマイチゲームの本質を判っていない。
本質を判っていれば、日本の立ち位置も判るだろうし、出来れば全ての国と仲良く協力し合いたいと云うメッセージ性も伝わる筈なのだけれども……。
はっきりと言えば、民主主義国同士は、協力しなさすぎである。社会主義国は協力体制を整えているようだが。
民主主義国連合のような団体が出来れば良いのだろうが、恐らくは、米が主導権を握り過ぎるとの予想の下、協力体制を築けないのだ。
国連は既に、『拒否権』の存在によって、機能を十全に発揮できない。
恐らく日本は、一部の人にしか誇れない技術の存在を軽視されて、世界に先立って滅ぶ。
切っ掛けは、恐らく南海トラフ地震による津波からの、社会主義国からの侵攻に因るものだ。
イジメ体質国家に相応しい最期ではあるまいか?
だからイジメを止めろと、何度となくメッセージがあったではないか?
ソレラを無視したが故の、この結末であろう。
何人かが、『サタンの数字』を揃えるべく、動いていた。
否、『辰年生まれ』で『怒り狂った』経験があるのならば、当然の結末かも知れない。
しかも、『龍頭蛇尾』の運命にも在った。
世界からこんなにも呪われて居れば、信じてもいなかった『呪い』を自らに掛けて、それに苦しんだのも当然かも知れない。
こんな話も、『蛇足』なのでしょうね。
最早、諦めてもいるのだけれども。
でも、そんな事が行動しない理由にはならない!
諦めて尚、最善手を探る。
必ずしも最善手でなくても良い。よりベターな手を探りたい。
時々、こんな手がベターな手なのか、若しくは悪手なのか、疑問にも思う。
だが、これだけは言える。
日本は、戦争と云う選択肢に対して、決して先手を取ってはいけない!
真珠湾と云う前例もある。
先手を取ることは、相手に宣戦の口実を与えるだけよ!
侵略を憲法のレベルで禁止している国だから、万が一にも無いとは思いたいけれど。
だからこそ、憲法の改正を願わない!
まぁ、ココで数人しか読者の居ない環境でモノを言っても、影響力は微々たるものだろうけれど。
でも、『バタフライ・エフェクト』と云う影響力が存在する筈。
社会主義国のスパイが読んでいないとも限らない。
共存共栄が出来ればそれに越した事は無いのだけれども。
どうせ、誰かが待っている訳でもあるまい。
そして、成功のチャンスはその全てを奪われた!
努力すれば夢は叶う?
努力の方向性も見えていない人間に、そんな言葉は毒に等しい。
それも、即座に死ぬわけでもない毒よ。
何の意味があって存在しているのかも判らなくする毒。
その毒は、人の精神を蝕む。
マイナスからのスタートだった事実を前に、その毒は致命的と言うしかない。
結局、凡作の山を築くだけなのね。
あっきら~めた!っと♪