第50話 話す余裕
「『FIRE』・『BALL』!」
「『SHIELD』!」
まずは、簡単な魔法から。お互い、様子見程度のつもりなのだろう。
「フラッドを降ろしたのは、果たして正解なのかな?
その気になれば、こちらはイリスに簡単な攻撃魔法を続けさせ、私が簡単には防げない魔法を、呪文を唱える事によって生み出し、それを放つことで勝負はつく。
だが、お前を死なせない為には、それは取り得ぬ選択肢だがな。
抵抗しないという条件で、貴様がフラッドに掛けたのと同じ魔法を使う事で、この戦いを終える事を提案するが」
「聞く耳を持たんよ」
「だろうな。
アイオロス、エマ。二人共、下で待っていろ。決着は、私とイリスの二人でつける」
今さら!――そう思い、アイオロスは叫んでいた。
「僕も戦います!」
「駄目だ。
お前のレベルでは、奴が本気を出すと赤子の手を捻るよりも容易く殺されてしまう。
簡単な魔法なら、お前に与えたフライト・アーマーの結界で防げるが、私や奴のようなレベルの術者の手に掛かれば、口で放つ簡単な詠唱による魔法を放ち、手で印を結ぶだけの魔法でも、その程度の結界なら、それ毎消し飛ばすだけの威力の魔法を生み出せる。
お前と私たちのレベルの差は、それほどあるんだ」
「そうは言いますけど、師匠、僕はせっかく水月を手に入れたのに……」
「――接近戦になど、持ち込めると思っているのか?」
「そうですね、とでも、言いたいところですが、僕にも意地があります」
「余計な意地を張って、みすみす命を落とす馬鹿者に育てたつもりは無いがな」
「けど、師匠が負けたら、次の狙いは十中八九、水月を持つ僕じゃないですか!」
「私を信用出来ないか?」
「そうは言いませんが……」
「もし、私たちが負けたら、大人しく奴に水月を渡せ。それが、最良の選択肢だ」
「……師匠。さんざん話した後で何ですが、話している余裕はあるんですか?」
「心配無用。印を結ぶことによって、カウンター・マジックの準備をしてある。
だから、奴は手を出して来なかった。
無効化されるのは目に見えているし、下手に魔法を放てば、そこに隙が出来る。
その隙に、決定打となる攻撃魔法を放つ準備も、イリスが整えているのだ。
奴はそれを知るだけの能力を持ち合わせているから、手を出して来ない。
攻撃魔法に限らず、防御魔法も。
万が一、防御魔法をカウンターされたら、それだけでも決着が着くからな」
「ククククッ。
それだけだと思っているのか?」
ルシファーが吐いた、不気味なセリフ。
「何故、この日に決めたのか、おかしいとは思わなかったのか?」
「ああ。しかし、私に負けを認めさせる為には、確かにこの日が最適だ。
月の満ち欠けに能力を左右される私が、最高の力を出せる日が」
「自覚があるのなら、多少は変化を感じないのか?自分の力が、かなりの速さで衰えつつあるのを」
「……?何の事だ?」
「見ろ、あの月を!」