第1話 試験開始
黒い長髪が似合う少女・アースは、窓際の席を確保すると、自身の顔写真を貼ってある受験票を、筆記用具と一緒に机の上に並べて、試験会場を見回した。
若干15歳の彼女は、かなり若い方であるらしく、中には髪がすっかり白くなったお婆さんの姿まで見られた。
「良かった……」
アースは、一枚の写真を取り出した。
そこには、一人の青年の姿が写っている。金髪で、よく見ると瞳も金色、肌は白く、引き締まった身体付きをしている。
それだけ聞けば、美男子なのかな?と思われるだろうが、実際には、三枚目も良いところ。眼鏡を掛けていないのが、唯一の救いだった。
なのに彼女は。
「王子様、私に言い寄って来る虫だけは、いないみたいです」
そう言って、彼女は写真の彼の唇にキスをした。
「静粛に!
これから試験問題を配ります!」
「頑張ります、王子様」
ホワイトボードには、「王立ダストX技術学院入学試験」と記されていた。
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「ゴミとは、良く云ったものだな」
彼の姿は、アースの持っていた、写真の姿そのものだった。
「ムーンはこの街、嫌いだもんね」
隣を歩いていた少女が、すれ違う人を避けるフリをしてムーンの腕に抱き付いた。
「抱き付くな、スター!
何度言えば分かる!」
「はーい」
突き放された彼女は、子供のような背丈の小豆族にぶつかり、「ごめんなさい!」と謝るが、ムーンは血相を変えてその小豆族を追いかけた。
「どうしたの、ムーン!」
スターもムーンを追いかける形で駆け出したが、未だ状況を把握していないのだろう、必死に追いかけるつもりは無さそうだった。
「阿呆!財布をスられたぞ!」
「えっ?!本当!?」
スターが慌てて懐を改めるが、財布はそこにあった。
「……あるじゃん。
ムーン、財布あるよ……って、何処に行っちゃったのよ?!」
よくも「小人族」とも呼ばれる小豆族を、見失わずに追いかけるムーンは、スターが懐を改めるほんの僅かの時間に、既にスターの視界から消えていた。
スターはさっさと諦めて、近くのカフェでドリンクを注文すると、窓際の席を確保して、気長にムーンを待つことにした。