第41話 解決
「フッフッフ。一件、落着か。これで、ヴァンパイアの血が絶えずに済む」
笑ってはいなかったが、虎白も暖かい目で見守っていた。
「それは良いんだけどよぉ。俺の変身制御能力は不完全なんで、ソイツの血を吸わせてくれないか、ジイサン?」
「……あのワーウルフはどうした?」
「……あ!」
ドラキュラの指摘で、虎白はようやく気付いた。芳一が逃げ出していることに。
「あンンンンの野郎、賭けに負けたからって、逃げ出しやがって!
絶対に見つけ出して、殺してやるからな!覚悟しておきやがれ!
……ところでジイサン。頼むよ、ソイツの血、吸わせてくれよ」
「……一口だけならな」
「オーライ。多分、一口で十分だ。薄まったアイツの血でも、これだけの効果が出たんだからな」
龍青の死体から、血を吸う虎白。やがて、彼は人間の姿を取り戻した。
「よし、完璧!
ありがとよ、ジイサン」
「その、『ジイサン』という呼び方は、やめたまえ。
私はドラキュラ。その名で呼んでくれたまえ」
「OK。
サンキュー、ドラキュラ伯爵殿!」
「むっ……!
伯爵であったことは無いのだがな。気持ちが良いぞ、その呼び名は。
今後、私の事はその呼び方をさせよう。
狼牙!」
狼牙は抱いていた詩織に断ってから身を離し、ドラキュラと向かい合った。
「帰る前に、言っておこう。
必ず、幸せになるんだぞ。私の生み出したウィルスが、不幸のウィルスとはなって欲しくない。
それと……。
君の作品、楽しみにしている。あまりに懐かしいもので、涙が出るほど感動して読んでいる。
ただし、文章の構成力は、まだまだ甘い。先祖の文才に助けられる作家にはなるんじゃない。しっかりと、勉強したまえ」
「……僕の作品を、読んでくれているのか?」
「当然!身内の作品だ。読んで当然。お陰で、本格的に日本語の勉強をしたよ。
私はそろそろ帰らせてもらうが、何か言い残したことはあるかね?」
「山ほどな。
まずは、詩織の為を思って力を貸してくれたことには感謝する。
だが、漢と漢の戦いを邪魔したことには、文句を言いたい。
戦いが嫌いな僕でも、あそこまで戦ったのなら、決着が着くまで戦いたかった」
「フンッ!何度もチャンスを逃しておいて、何を言う。
あのくらいの相手、圧倒して勝ってもらわねば、ヴァンパイアの始祖たる私が、見ていて恥ずかしいぞ。
私の生み出したウィルスは、この程度だったのか、とな。
もっとも、永遠の時を生きる生命体を目標として作ったウィルスにも関わらず、子孫にその能力が残されていない点については、あの世で師匠に顔見せ出来ない程に恥ずかしいことだがな。
だから、お前には期待しておるのだぞ。隔世遺伝で、ウィルスの効果が強く表れたお前に対してはな。
永遠の時を生きる存在と、なってくれ。少なくとも一千年は生きてもらわねば、私は死んでも死に切れん。
それと、子供は必ず作ってくれ。一人でもいい。直系の子孫が残っていれば、私は希望を持って生きることが出来る。
私が死ぬ前に子孫が絶えることにはしないでくれ。
……何なら、今夜、作っても良い。そのくらいのつもりでな。
では、そろそろ私は帰って、コレの研究に専念しようと思う。
狼牙。君とは、少なくともあと一度は会う機会があると思うから、その時はよろしく頼む。
元気でな。
さらばだ!」
そう言い残すと、ドラキュラは現れた時と同様、唐突に消え去った。龍青の死体も一緒に。
「あのジイサン、一体、何者だったんだろうな」
「さあな。
言っていることが本当で、奴がヴァンパイアの始祖だとしたら、少なくとも千年は生きている計算になるがな。
……残念ながら、僕は、奴に良いように言われる程度の力しか持っていないようだ。
……少なくとももう一度は会うと言うのは、どういう意味だったんだか」
「ま、良いじゃねぇか。
お陰で、都合良く組長は死んでくれた訳だし。正体がアレなら、俺らだけでは勝てなかっただろうな。
感謝するぜ、アンタと、あのジイサンに。――おっと、ドラキュラ伯爵に、だったな。
……そうだ!祝勝会をやろうぜ!予算は全部、俺が出してやる。
アンタの嫌うヤクザが集まっちまうかも知れんが、俺はアンタと飲み明かしたい。
彼女も連れて来て良いから、来てくれねェかな?」
「……上等な赤ワインを用意してくれるのならな」
「OK!
じゃ、救急車や警察が来る前に行こうぜ!」
かくして、突然の出来事は解決したのであった。