第27話 覚悟のゲーム
「──と云う訳で、6人と順番に、ケーキカットをして頂きたいのですけれど。殿下?」
一瞬、デッドリッグの意識は遠い所へ飛んでいた。が、ローズの声掛けで我に返る。
「ああ、だから燕尾服だったのだな。
良し、皆、順番に切ろう!」
そうして、ケーキは6度切られた後にお付きの者によって切り分けられ、皆で一緒に食べる事になった。
「お、俺達、こんな美味しいモノ食べて、ホントに良いのかなぁ?」
ルファーはそう言うが。
「あら。ワタクシ達の結婚を祝う儀式のようなものですわ。
出来るだけ多くの方に食べて祝って頂きたいのですけれども……」
ソコに、お付きの人からローズに合図があった。
「あら。学食で配って頂く件、無事に交渉が済んだようですわね。
流石に一口サイズになるのは仕方ないとしても……。
学園中が祝福した結婚となると、重婚の件も、割とすんなりと通りそうですわね」
ただ、当初予定していた、『学園から離れた場所での挙式』と云う結果は、卒業後のローズの身の振り方一つの為に、変更を余儀なくされてしまった。
そもそもがゲーム内に無かったイベントを開催しての挙式である。予定の変更程度は、仕方のない事ではあった。
まぁ、全員が卒業したら、改めて、公爵とその正室と側室と云う立場での挙式は、デッドリッグにも想定内だが。
「でも、一つだけ忘れていた事がありますわね」
ローズの言葉に、皆に緊張が走った。
「公の場で、口付け──キスを交わす事ですわ」
「あら、ローズさん。ココにも4人ほど、部外者が居りますが、彼らに証人になって頂くと云うのは如何でしょうか?」
「やだ、バチルダさん。ワタクシとしたことが、失念しておりましたわ。
と云う訳で、ルファーさん達。宜しくお願い致しますわよ♪♪」
「「「「えっ!」」」」
何かとんでもない事の証人に成らされていそうな事態に気付く4人だったが、最早、逃げ場など何処にも無かった。
「では──デッドリッグ殿下。……フレンチ・キスは困りますわよ。
触れるだけの優しい口付けを、6人全員とお願い致しますわ」
そして、率先と先頭を奪ったローズ。その、胆の据わりようも、流石は筆頭ヒロインである。
デッドリッグは、やれやれとばかりにそっと触れるだけのキスを6人のヒロイン達と順番に交わした。
「グルーヴが収まっていないから、触れるだけのキスでも十分刺激的で御座いますね」
「あう……あの──殿下、ローズさん。その……」
何かウズウズした様子で、デルマと、カーラも目で何かを訴える。
「あー……俺は判った。
後で、順番に、な。
ローズ、それで良いよな?」
「ふぇっ!?」
まさかデッドリッグから話題を振られるとは思っていなかったローズが、驚きの声を上げる。
「え、ええ。順番に呼びに行けばよろしいのですよね?」
「ああ。皆に任せる。
俺は俺のベストを尽くす。
いやぁ、転生前の俺だったら、『無理、身体が持たない』と言うところだ。
若いって素晴らしいな!」
それに対しては、女性の身で『ヘブンスガール・コレクション』をプレイした腐女子だった6人も、多かれ少なかれ、同じ感想を抱いていた。
これで、6人が『前世は男でした』とでもカミングアウトされていたら、デッドリッグの気持ちは微妙になるところであるが、幸いにも6人とも前世も女性だった。
そして、やはり来年度に問題は起こるであろうことは想像に難くなく、その時にローズの学園内への不在が判断を難しくするのであり。
その後に最上級生となる、バチルダ、アダル、ベディーナの3人に判断が任される事になる。
場合によっては、隠しヒロインも居るのだ。
相当に難しい判断になる事が確定的に想像に難くないが、だからと云って、その判断が楽になる訳もなく。
「お任せ致しますわよ、バチルダさん、アダルさん、ベディーナさん。
この際、臨機応変で構いませんわ。アドリブ利かせる位の覚悟で臨んで下さいな」
この時、ローズはバチルダに1つのカードゲームを託した。
「『氣臨』。既に商品化されていながら、非売品の簡単なゲームですわ。
覚悟を決める時に、ご利用為さって下さい。
極限までシンプルにした結果、商品とはなり得ないモノになりましたけれど、その内、気が付く筈ですわ。──覚悟の差、と云う奴を。
ですから、来年は3人も最上級生が居るのですから、臨機応変に対処をお願い致しますわ。
フフフ……。来年の今頃、どの位の覚悟になっているのか。
楽しみにしておりますわよ?」
受け取ったバチルダは、こう答えた。
「あの……ローズさんからルールのインストをお願いする訳にはいきませんか?」
「ええ。構いませんわよ?
でも、皆には秘密よ?」
その後、50組限定で、覚悟に臨む者たちから密かに買い求められた事は、ローズには嬉しい誤算だった。
尚、デッドリッグは卒業するまで一度として、そのカードゲームに参加を許される事は無かった。
後日、不貞腐れたのは言うまでもあるまい。