損害報告

第20話 損害報告

「報告ありがとう。

 で、スターさん。ムーン=ノトスは今、何処に居るの?」
 
 研究室爆発の件は、スターが既に報告していた。被害者ゼロと云うし、原因のムーン=ノトスが無事であろうことは、疑う余地も無かった。
 
「それが……分からないんですよねぇ。

 私が現場に駆け付けた時には、野次馬ばかりが集まっていて、肝心のムーンの姿は無くて……」
 
「――ちょっと待って頂戴。

 それは、何?ムーンの研究室の書類等の資料を、始末もせずにムーンは立ち去ったと云うの?」
 
 学長であり、ムーンの母親でもあるアフロディテは、ムーンの失態を責める発言をした。
 
「あー、書類の類は飛散していましたねぇ。でも、重要な資料があったら、流石に本人が処分しているんじゃないですかねぇ?」

「然程重要とムーンが判断していなかった資料をアースさんに手渡した結果、禁呪でこの街は半日停電した。

 この事実から考えても、ムーンの情報管理の認識は甘い、と判断せざるを得ないでしょう」
 
 コンコンッ。
 
「はい、どなた?」

 ノックの音に、アフロディテは反応を返した。
 
「ムーンです」

「――入りなさい」

 許可では無く、命令であった。
 
 入室したムーンは、空気の悪さを敏感に感じ取った。
 
「研究室爆発の件、まず報告・説明なさい!」

「ハッ。

 『αシステム』コアの、正八面体100%正確率の作成に成功した結果、コアが暴走。後に沈黙。
 
 これに対する、私の認識は、コアの自我への目覚め。対策として、角を一つ切った事で、無事に『自我』の刈り取りに成功。
 
 以降の研究への危険性と対策を考え、報告・相談に参りました」
 
「――書類の処分については?」

「――は?

 いえ、研究室に大した重要な書類はありませんが――」
 
「あなたのその認識が甘いと判断し、処分の必要性について、今、話し合っていたところです。

 どの程度の資料が現場に残されていましたか?」
 
「一見、意味の分からない数値データが殆どです。

 まさか、現場に意味の通じるデータを記した書類があれば、当然、焼き払っていました。
 
 ですが、今回は必要無かったので火を放つリスクの方を避けましたが」
 
「本当に、重要な資料は無かったんですね?」

「ええ。重要な書類は、別の安全な場所にバックアップを取ってあります。

 あの現場に残された資料を役立てる事の出来る技術者ならば、同等の数値データを得られていた筈です。
 
 故に、あの資料を必要とする者は存在しないでしょう」
 
「その他、損害状況は?」

「近隣の研究室の壁を含む、研究室一つの消失。せいぜいがその位ですが?」

「……近隣の研究室の被害状況の確認と、出来る限りの復旧作業に取り掛かりなさい。――今すぐに!

 行きなさい!」
 
「ハッ。では、失礼」

 立ち去ったムーンを見送って、アフロディテは一つ嘆息した。
 
「本当に、研究室一つ程度の損害だけで済んでいれば、おんの字ね。

 スター、ちょっと、状況の確認も兼ねて、ムーンの手伝いをして来て貰えないかしら?」
 
「はい、了解しました。

 では、行って参ります」
 
 数時間後、ムーンの報告した被害状況が本当にそれだけだったことをスターから確認して、アフロディテはようやくほっと一息つくのであった。