第1話 落とし物
少女は、偶然にも、そのサイコソフトのプラグを拾って手に入れた。
サイコソフト『Gungnir』。
少女――名を天海 九之一と云う。余り女の子らしくない名前が、ちょっとしたコンプレックスだ。ある意味、限り無く女の子らしい名前だが。
彼女は、ソケットを一つ持っていた。メモリーワイヤーと云う情報の記録媒体、それを脳と繋げてデータのやり取りが出来るものの差込口。ソレがソケットだ。
サイコソフトとは、サイコプラグシステムを使って、超能力を使う能力に目覚めるソフトだ。
彼女は、ソレがどんなサイコソフトだろうと、気になった。因みに、プラグの横にソフトの名前は記されている。
勉強用のデータを保存しているプラグを引き抜いて、『Gungnir』を差し込んだ。すると、ソフトの使用方法の説明が脳内にインストされる。
「攻撃用サイコソフト?!」
その事実を知った瞬間、怖くなった。けれど、それ以上の好奇心が湧いた。
「どの位の威力だろう?」
年齢14歳。厨二病と揶揄されるお年頃だ。
とりあえず、公園に行って、樹の根元を狙ってその『Gungnir』の攻撃媒体――光の槍を放り投げた。
――ズドンッ!
樹を突き抜けて、地面に刺さる。メキメキと音を立てて、樹は倒れて来る。
九之一は慌てて避けた。
――コレは恐ろしいものだ……。
九之一はそう思い、何かの時の為に持ち歩いてはおくが、封印する事を決意した。
――数日後。
赤い髪を逆立てたおっかないオジサンに、「ちょっといいかな」と声を掛けられて、全力で逃げた。
冷静に考えれば、『Gungnir』を探していた人かも知れないとは思ったが、九之一は『Gungnir』を返す気は無かった。
返せば、光の槍で殺されてしまうかも知れない!――と、そう思って。
だが、九之一は度々そのオジサンを見掛け、その度に逃げるのだった。
そして、覚悟が決まったその日。
オジサンとの決着を着けるべく、九之一は立ち向かう事を決意した。
しかし、オジサンを見掛けた折に光の槍を構えたところ、「マジかよ!」と云う言葉だけを残して、オジサンは去って行った。
恐らくは、テレポーテーションをしたのだろう。
だが、九之一にとって、『逃げ出した』と云う事実だけが重要で、それ以上、関わる事は無いだろうと思っていた。
光の槍は出し入れ自在の為、光の槍の始末に困る事も無かった。
悪い人が居たら、コレで退治してやればいい。
九之一は、そんな独善的な正義感を持って、『Gungnir』を扱うのであった。
困ったのは、逃げ出した方のオジサンーー緋神 恭次であった。
『Gungnir』は、軍事用サイコソフト『Fefnir』にも通用するサイコソフトであったし、攻撃性能は飛び抜けている。
ソレを預かっていながら、落としたのは恭次の落ち度だ。
そして、『Gungnir』を防げるのは、『第五世代』以降の『AEgis』か『Athene』。共に、恭次には扱えない。
誰か、他の人材を派遣する必要があった。
「はぁー……リーダーに報告するかぁ……。気が重いなぁ……」
だが、預かった恭次に責任がある。報告は半ば義務だ。
そうして、キラーチーム『クルセイダー』による、『対Gungnir』作戦が実行される事になる。
主に担当するのは、『クルセイダー』の札幌支部のリーダー、安土 隼那。並行利用できる『Athene』は使えないが、『Gungnir』も『AEgis』も、単独でなら使用できる。
北海道を護る為の反撃能力。その為に、『Gungnir』を使える人材に渡す為に預かったソレを、うっかりと落としてしまったのが事の顛末の始まりだったのだった。