義賊

第48話 義賊

「で?

 稼ぐ必要が出て来たからって、月に30件はちょっと多過ぎやしませんか?

 確か、最初の契約では年に10件だった筈」

 八神 療は、その事にまず不満を述べた。

 ――貴重な『Swan』使いにして、年収は3000万を超え、伴侶も居る。

(そんなに恵まれているのに、ケチ臭いコト言うわね)

 隼那は、内心そう思った。

「人助けと思って、協力してくれない?」

「まぁ――やぶさかではありませんが」

「そう!そう言ってくれると助かるわぁ」

 隼那は心底、そう思った。

 一件3000万。内、300万は療の取り分。更に税金で1500万程を持って行かれる。

 実質、一件につき、利益は約1200万円。

 月に30件で、3億6000万程。それでも、致命的な病や傷の治療に、注文は後を絶たない。

 古傷なんかも治せてしまったりする。プロスポーツ選手なんかは、注文件数が多い方だ。

 絶望に差し込む、一筋の光。そんな言葉もささやかれる。

 外国からの注文も多いが、支払いは日本円か金のインゴットと決めている。

 ココに、疾刀の協力を得られれば、『若返りの秘法』を施せるのだが、主義主張の違いで、協力は得られていない。

 その場合、恐らくは一件7000万円は下らないと云う予測が立っている。

 まぁ、老衰による病気を治せば、療にも『若返りの秘法』に近い治療が出来るのだが。

 但し、軽度の病気や怪我の治療の依頼は無い。

 ソレに関しては、『ネ〇ター』を『ドライイースト』で発酵させた飲み物を飲めば、万能薬的な薬効を発揮すると云う噂が広まり、プラセボ効果以上の効果は、間違いなくあると云う。

「じゃあ、近々、担当の子を付けて、一緒に治療に回って貰うわ」

「あの……その、僕に付けるって人、男性でお願い出来ませんか?」

「……別にいいけど、本当にいいの?」

「ええ。僕には涼と云う伴侶が居ますので。

 その……嫉妬が怖いと申しますか……」

「――判ったわ。貴方と話が合いそうな人にしておくわ」

「助かります」

 この時の、療の言葉が、確かに助かる道へと導かれる為のルートだとは、隼那は気付かなかった。

 但し、療による治療には、保険が効かないと云うのが難点なのだが、3000万支払ってでも、療の治療を受けたいと云う者は、月に30件探すのも、然程難しくは無かった。

 むしろ、サイトを作って募集したら、応募が来た中から厳選する事も必要になる程であった。

「あ、そうだ。

 療君、『エルサレム』に興味はある?私たちの溜まり場なんだけど。

 一応、ミニパフェを安く提供しているわよ。

 『Swan』での治療、かなりエネルギーを食うでしょう?

 因みに、『エルサレム』のパフェは、糖分や甘味料の代わりに、ブドウ糖を使用しているわ。

 興味があったら、案内するわ」

「別に……これと云って興味はありませんけど」

「あ、そう。

 気が変わったらいつでも言って。

 じゃあ、明日からよろしくお願いします」

「あ、はい。

 よろしくお願いします」

 実際問題、中国の『虎列刺コレラ』患者が余りにも多いのだが、隼那は社会主義国が社会主義国である限り、ソコに救済を齎すつもりは無かった。

 かと云って、民主主義国が資本主義社会である事にも、問題意識を持ち始めているのだが、そう簡単には変えられない。

 よって、社会主義国が資本主義国たらんとしようとしている事には、大いに反発する意思を持っており、ならば、どのような形が最善なのか。

 ベーシックインカムの採用。ソレによって、人は『自分が真にしたい仕事』を出来るようになった。

 だからと云って、やりたい仕事で『儲けられるか』は判らない。

 しかし、ベーシックインカムだけで食べていくには、やや貧しいと言わざるを得ない。

 ならば、仕事をするべきなのだが……。

 殆どの者は、働き方を間違えていた。

 コンピューターによって、仕事を『奪われた』と思う者が多過ぎる。

 違うのだ。

 コンピューターは、社会の基盤を作る役目さえ果たして居れば良い。

 人間は、『ちょっと贅沢』をする人たちの為にサービスを行えば良い。

 その為に、コンピューターの力を借りても良い。

 コンピューターと人間との共存共栄。コレこそが理想的だ。

 隼那たち『クルセイダー』は、カオスのグッドだ。

 悪い稼ぎ方をしている者からは奪う。良い稼ぎ方をしている者は護る。

 但し、法律には必ずしも従わない。

 常に真の意味で『確信犯』たろうとする。

 世はそのような者を、『義賊』と云う。

 金に困る者への施しも忘れない。

 実際、費用を『クルセイダー』持ちで、療による治療を受けた者も少なくないのだ。

 特に、若い者は救う。善良な者を救う。

 老害は見捨てる。申し訳ないが、善良たらんとしなかった者への処罰だ。

 『不良』とレッテルを張られた者を、見捨てない。彼らの殆どは、『格好良く』あらんとした者たちだ。

 だからと云って、『イジメ』を行う者は救わない。『イジメ』は、サタンを誕生させる、最低最悪の行為だ。

 だから、『イジメられた』側のサタンは救う。彼らは、『サタン』と云う運命を強制的に押し付けられた、犠牲者だ。

 『イジメた』側のサタンは、見捨てる。彼らは、ソレが自らをもサタンに陥れると云う運命に気付かなかった、『無知故の罪人』だ。

 良い方へ改心した者は救う。悪い方へ改心した者は見捨てる。良い方へ改心する事が、如何に難しいかを知るが故に。

 ソレラが、『クルセイダー』の基本方針である。

 故に、簡単に稼ぐことが出来ないのだ。ソレが、『Swan』の入手と療との契約によって、比較的稼ぎやすくなった。

 ソレに罰金刑を掛けられないよう、『クルセイダー』では税理士を雇っているし、療も税金に関してはその税理士さんにお任せしている。

 ソレこそが、『クルセイダー』が義賊として長くやっていける理由でもあった。

 秘訣と言ってもいい。

 そして、『クルセイダー』はしばらく――そう、少なくともあと3年程、戦争の抑止力として活躍して行くつもりでいるのであった。