美少女ゲーム

第1話 美少女ゲーム

──Side:??(デッドリッグ)

 昨晩、俺は『ヘブンスガール・コレクション』と云う美少女ゲームの、ヒロイン7人全員攻略と、7人それぞれの溺愛コースの全てを制覇した……筈だった。

 そして、床に就いて翌朝目覚めたら……悪役第二皇子のデッドリッグ・ツバイ=エンピリアルになっていた。

 厳密に言えば、エンピリアル皇国学園の入学式の翌朝、個室の寮で記憶が混在していた……ところから、鏡を見て顔を確認し──金髪碧眼の美男子だった──、現状の把握を試みている。

 個室の寮と云うのは、別に特例である訳では無いのだが、1階の1号室であるこの部屋は、他の部屋より少し広く、そして──ベッドがダブルサイズだ。

 悪役なぞ、なってなるものか!……と思う一方、前日の入学式を思い起こすと、兄たる主人公のバルテマー・アイン=エンピリアルの様子が気掛かりだった。

 何しろ、順調であれば攻略済みの4人の誰とも、男女の関係に至っていないように思えたのだから。

 攻略済みであれば、所構わずイチャついている筈だから、ほぼ間違いない。

 ならば、特定の誰かを狙っているのか……。

 取り敢えず、同学年の2人の攻略対象には、干渉しない事が重要だ。

 上級生の4人は、まずどう云う状況に陥っているかを確認する事が重要だ。

 だが、悪役たる自分から接触を持とうとするのは危険だ。

 何らかの方法で、噂レベルからの情報を集めるしかない。

 ならば、まずは学食だ!

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 然程華美でないが広い学食で、日替わり定食を頼んで──タレザンギ定食だった──席に着き、まず困った。

 何故ならば、バルテマーの第一攻略候補である、ローズ・フュルスト=ミュラーが向かいの席に座ったからだ。因みにローズブロンドの髪と、左目黄色、右目赤のヘテロクロミアの美人さんだ。

「……」

 先ずは、学食を無言で食べ進める。──うん、味を感じないぞ。

「……はぁ。デッドリッグ殿下なら、何か言葉があったと思うんですけれど……『ヘブンスガール・コレクション』のプレイ記憶があると思って間違いないのかしら?」

 プーッ。

 食器に向いていたから被害は軽微であるけれど、ローズのその言葉に、俺は吹いた。

「間違いないようですわね」

 しかも、確信されてしまったようだ。

「何故に俺に……?」

「さあ?まぁ、バルテマー殿下に単独溺愛コースを進むのは、少なくともワタクシたちはお断りだわ」

「あー……」

 末路を思い出して、俺は納得した。

 単独溺愛コースは、攻略対象を『壊して』しまう。ソレ専用のオモチャの如く化す。

 そんなコースがお断りなのは、前世の記憶があるのならば、判る。……しかもあのゲーム、女性プレイヤーからも結構な人気だったんだよな。

「で、男性キャラクターの人気ランキングをご存知?」

「……あー」

 確かに。ソレではデッドリッグは人気No.1だった。そのポイントが女性プレイヤーに好評だったと云う程の。

「オモチャと化すのを防ごうとした結果、主人公からすれば、悪役だった貴方は、色々と狙われますわよ?」

 その時、ローズの斜め後ろにしゃがんだ女性が、「2人もやはり、記憶があります!」と告げて去った。

「どうやら、今年入学して来た2人も、前世の記憶があるようですわね」

 冷汗がダラダラと止まらない。

 何の意図があって、どう動いているのか。ソレは、俺には全く判らない。

「今のところ、全員の共通項なのですけれど、入学式の翌朝に『前世の記憶』が残されているようね」

 『ヘブンスガール・コレクション』の攻略記憶があるのならば、女性陣がバルテマーを避けるのは判る。

 万が一、単独溺愛コースに突入したら、終盤には壊れたオモチャの如く、バルテマーを求めるのだ。

 だが、前世の記憶があるからと言って、全員がバルテマーを避けるのは、何か不自然に感じる。

「因みに、バルテマー殿下も『前世の記憶』があるそうですわ」

 あっちゃー!生半可に『前世の記憶』があるなら、誰とも結ばれていないのも判る。

 最終盤の、『オモチャ化』したヒロインに同情するなら、誰も選ばなくても不思議ではない。

「まぁ、ワタクシは来年卒業ですから、それまでにワタクシもデッドリッグ殿下の覚えが良くなっていて欲しいのですけれど?」

 ソレは、俺に対する『逆攻略』の宣言なのだろうか……?

 とても恐ろしくて、確認は出来ないのだけれども、今後、理解を深めるのは必要そうだ。

「まぁ、ワタクシ達の共通認識は、デッドリッグ殿下に依る、7人全員攻略コース、なのですけれども」

 ……アレ?確かこのゲーム、俺の記憶では未発売だったけれども、追加コンテンツの8人目が居た筈なのだけれども。

 ──じゃねぇわ!何だよ、その、デッドリッグによる7人全員攻略コースって!

「繰り返し言っておきますけれど、バルテマー殿下も、前世の記憶をお持ちのご様子でした」

「……はぁ?!」

 だとしても、納得がいかない。

 まさかバルテマーは、誰か一人の溺愛コースを選んでいるのだろうか?

 どうするにせよ、バルテマーを敵に回して良い事は、何も無い。

「因みに、今のところ6名は、デッドリッグ殿下による全員攻略コースを希望しております」

 あー。何だ。

 もう、引き返せない所まで追い込まれているんじゃないか。

「とりあえず私は、今年度いっぱいで卒業ですので、早めに……その、関係を結び、──『正室』としての座をお約束いただきたいのですけれども」

 そんな会話を、誰が聞いてるとも知れない、少し混み合った学食で、俺にさえ聞こえれば良いとでも言いたげなローズは、赤面しているのだけれども。

 はぁー……コレは厄介事だ。

 誰か、俺をこの状況から救い出していただけませんかね?