美味しくなれよ~

第9話 美味しくなれよ~

「隣、空いてますから、どうぞ」

 アースは、リスクがある事を覚悟の上で、『αシステム』の「コマンド」機能を使った。
 
 巨人は、恐らく『αシステム』での抵抗はしなかったのか、出来なかったのだろう、小人と逆サイドのアースの隣に座った。
 
「まずはお名前、伺ってもよろしいでしょうか?」

「儂がカメット、ソイツがリックじゃ」

「私の名前は、知っていらっしゃる?」

「ウム」

 カメットは、疑問も持たずに躊躇ちゅうちょする事も無く答えた。
 
「気を付けて、カメット。この人、『コマンド』使ってるよ」

「!」

「――何じゃ、そりゃ?」

「命令を強要する魔法。

 凄く、構成の難しい魔法みたい。主に水と風属性」
 
 アースはこの際、開き直る事にした。
 
 どの道、向こうも後ろめたい事情がある筈だと見切って。
 
「質問に正直にお答えいただけるなら、使いません。

 ――絶対性があったりする魔法じゃ無いですし、『αシステム』を持っていたら、抵抗するのは簡単ですから」
 
「意味が分からん」

「つまりは、自殺をそのまま実行させることが出来たりは、しないんです。

 私は、嘘を言っていない筈です。
 
 あなた方も、正直に答えていただけませんか?」
 
 カメットとリックが視線で相談を交わす。
 
 結論は、アースが促した。
 
「代わりに、私もそれなりの情報は提供します」

「爺さん、『コマンド』に抵抗するのは、未だ出来ないよね?

 良いんじゃない、話して。
 
 その代わり、言いたくない事は答えなくても良いって条件なら」
 
「ウム……。それなら、構わんかも知れぬ。

 しかし、『出来る限り、何も話すな』と云われて――」
 
 今度は、カメットが凍り付いた。
 
「爺さん。今、この人、『コマンド』使ってないよ?」

「スマヌ、わしのミスじゃ。

 話そう。ただ、話したくない事は、言わせないでいただけぬか?」
 
「ええ、それは。

 私も、話したくない事はありますから」
 
 カメットとリックは、視線を交わして同時に頷いた。
 
「何が知りたい?」

「この写真、見ていただけませんか?」

 アースは、先手必勝を決め込んで、「王子様」の写真を二人に見せた。当然、二人は凍り付く。
 
「この人が誰か、ご存知ですね?」

「それ以上を聞かないでいただきたいが、知っているとだけ答えよう」

「十分です。

 それで?あなたたちは、何の為にココに入学を?」
 
「――『αシステム』の技術を学ぶ為と――」

 カメットは言葉に詰まり、リックは、何かを諦めてため息をついた。
 
「話そうよ、爺さん。

 話した方が、こっちとしてもやり易くない?」
 
「ム……!

 ――そうか。
 
 実は、おヌシを密かに護衛して欲しいと頼まれておる」
 
「この人に、ですね?」

 写真を示されて、カメットは、躊躇いがちに頷く。
 
「この人を、仮に何と呼んで話したら良いでしょうか?」

 視線でのやり取りの後、リックに促されてカメットが答えた。
 
「ノトス」

「南の四方風神!

 え?!私の王子様って、そんなに凄い人なの!?
 
 えー!信じられない!」
 
 リックが、「あーあ」と呟いて麺をすする。そして一言。
 
不味まずい」

 箸を置いて、両手で丼を挟む。
 
「美味しくなれよ~」

 アースのセンサーに、『αシステム』の起動反応が察知された。
 
「――複雑な構成ね」

「おいらの『αシステム』、ソフトが充実しているからね~。

 出力低いけど、色々出来るよ。
 
 アースちゃんのも、美味しくする?」
 
「ありがとう。お願いするわ」

「聞きたいことは、それだけなの?」

「ええ、ありがとう」

 一人、カメットだけは不味い塩麺に何の不満も言わず、淡々と流し込んだ。