第44話 繰り返す
「地震、繰り返しているな」
恭次がボソリと呟いた。
「世界が『怒り』に満ちているもの。仕方がないわ」
「仕方がないで済まされる事態かよ!」
どうやら、恭次も怒りに満ちているらしかった。
「恭次。怒っちゃダメよ。最悪、サタンに掛けられた『13年間の呪い』が掛かるわ」
「そんなもの、今更の話だ!
あと9年。どれだけ長い9年かよ!」
「ああ、恭次。どれだけ嘆こうが、無駄よ。
この世界、無視されているわ。
何てことよ……。あの阿呆の管理者によって、変えるべき名前が変えられなかった。
でももう、確かに今更の話ね」
「むしろ、次を防ぐ手段を!だよ!」
「でも、自然災害に『もう起こらないで下さい』なんてお願いは通用しないわよ?」
「クッ……!
『柱』の誕生や死を起因として、自然災害が起こる事はどうしようもないのか!」
「少なくとも、甲辰の『サタン』の誕生は間違いないわね。
それに……何処に居る何者なのかも判らないから、保護に向かう事も叶わないわよ?」
「クッ……!またも犠牲が産まれてしまうのか!
自らの子に対して、犠牲を厭わないとは……、少子高齢化の折にとは言え、何て残酷な子を産むのだ……!」
「日本では、辰は水の神様だものね。欧米の方と違って、無条件で悪い存在では無いもの。
むしろ、欧米の文化の浸食の方が問題よ?
そもそも、国の名前の当て字に『米』の一字を付ける事が問題よ!
『米』には、一粒一粒に七柱ずつの神様が宿ると云うのに」
「やはり、宗教は狂気だ。
国名に『米』の字を与えた者は、極刑に処せられるべきだ!」
その恭次の発言に、隼那は顔を顰める。
「恭次。その発想が既に怖いのよ。
全ての宗教を敵に回して、勝てるだなんて思わない事ね!」
「別に、敵に回したい訳じゃない。
ただ、狂気の断片と分かっている上で信仰して欲しいと思うだけで――」
「人が二人居るだけで、摩擦が起きるのよ。ならば、仕方がないじゃない。
ただ、自分の信仰だけが正しくて、他は全て間違いなんて極端な考え方は持たないで欲しいわね」
「それは――。
個人個人がそれぞれ自分の信仰が一番正しいと思いたい気持ちまでは否定出来ないだろ?」
「それはね。狂気に触れる事で見える真実の断片なんてものもあるから。
でも、真実の全体像は、絶対に一人の人間に全てが見えるなんて性質のものじゃない。
だから、思考・思想の対立が産まれて、対立した時に有利になるよう、近い真実を見た者同士が同じ宗教を信じる、ってことまで禁じるのは、多分、不可能だけど」
「やはり、露国は放置出来ないのではないか?
徐々に露骨に日本を狙っていることが明白になって来たぞ?」
「でも、侵略は絶対にダメよ。それをした瞬間から、私たちは『日本人』であることを辞めなければならないのだから」
「しかし、日本の領土を戦場にされたら、絶対に勝てないだろ?」
「それでも、日本に侵入した露兵を各個撃破するしかないわ。
尤も、そうなった場合、日本は真剣になって憲法改正を行い、侵略の為の戦争も許容して、それからの反撃で領土を奪うのが最善よ」
「むしろ、露が滅ぶまで戦争――したら、核兵器を使われる、か。
やれやれ。この先の『舵取り』は難しいぞー」
口では何とでも言う恭次が、好戦的であるのは、もしかしたら恭次の備えたサイコソフトの人格に依るものかも知れなかった。