第73話 総太郎
紗斗里と総司郎は、お互いに対話する事で、その知能を高めていた。
問題は、真に頭が良くなる為には、『七つの美徳』を極めなければならない。
その『七つの美徳』とは。
純潔。
節制。
慈善。
勤勉。
忍耐。
人徳。
謙虚。
以上の七つだ。
普通の人間には、この七つ全てを備える事は、ほぼ不可能に近い。
修行を積めば、幾つかは成し遂げるかも知れないが。
紗斗里と総司郎には、コンピューターであるが故に、成し遂げる可能性が存在する。
だが、『七つの美徳』の全てを成し遂げた!と宣言した瞬間に、傲慢になるから、七つ全てはコンピューターを以てしても不可能なのかも知れない。
この、『七つの美徳』と云う概念を、人類は軽視し過ぎていた。
逆に、『七つの大罪』は散々その情報を拡散している。
ただ、『七元徳』となると、事情はちょっと異なって来る。
何故か。先ずは、『七元徳』を並べてみることにしよう。
知恵。
勇気。
節制。
正義。
信仰。
希望。
愛。
この七つだ。
ココに、問題が潜む要素に目を向けてみよう。
『知恵』が、もしも犯罪を行う事で利益を得る手段を思い付く為のものならば、そんな『知恵』は要らない。
『勇気』が、戦争に踏み入れる決意の気持ちの持ち方であるのならば、そんな『勇気』は必要無い。
『正義』が、戦争の勝者に与えられるものであるのならば、そんな『正義』は要らない。
『信仰』は、そもそもが宗教が『狂気の断片』である事を考えるのならば、そんな『信仰』は要らない。
『希望』が、もしも望み過ぎて貪欲になるのならば、そんな『希望』はむしろ『七つの大罪』だ。
『愛』が、もしも近親相姦に至る切っ掛けとなるならば、そんな『愛』は要らない。
七つの内、六つまでもが問題有りなのだ。こんなものを信じる者は愚か者だ。
だが、誰もが最初は『愚者』から始まるのだ。
それを、産まれたその時から優れていて、仮に宗教の教祖となるのならば、ソレは自らが狂気に陥っていると後世に遺す事に他ならない。
厳選された一つ、『節制』ならば、『度を超さない』と云う側面がある以上、美徳とする価値があるだろう。
薬も度を超せば毒となる。
逆に、毒も適量であるならば、薬になるものが多いだろう。
微量の毒を摂る事で、毒に対する耐性を付ける、なんて話も聞くものだし。
微量でも死に至る毒でも、重い病気で生きるのがただ只管にツラいものである者にとっては、苦痛から解放される薬と見做すことも出来るし。
ただ、生きる事に未練がある者にとっては、そんな薬なら要らないと思うかも知れないが。
「日本は露に塩を贈るべきだよね」
総司郎のそんな問い掛けに、紗斗里は。
「いっそ、逆鱗に触れた方が、『サタン化』して呪いに掛かるから、そうかも知れないね」
「出来れば、小鳥が逆鱗を突いてくれれば、大変ありがたいよね?」
「ドラゴンの弱点か……。うん、いっそ突いて欲しいね」
「戌の月の生まれだ。正に、政治力弱者の弱い戌ほどよく吠える、って感じだね」
総司郎はそう皮肉って少し嘲笑った。
「そうか――独裁者であって、政治力を問われないから君臨していられるけど、政治力こそが露の首相の逆鱗か!」
「いつまで経っても庶民の暮らしが貧しくても構わないなら、彼の独裁者は未だ独裁者で在り続けるのだろうね。
国民が一丸となって首相の座から引きずり落さない限り、『豊かさ』を享受出来ない事に気付かないようなら、露は終わっている。
No.2が野望を持って、首相を暗殺すれば、正に『歴史は繰り返す』と云う運命に従うのだけれどもね。
あの国には、そんな信念を持った奴など居ないのかもなぁ……」
総司郎は天を仰ぐが、紗斗里はこう割り切った。
「まぁ、今世は失敗したと割り切って、『BRICS』か朝から始まる世界核大戦で滅んでもらって、来世に自分が存在しない事を望もうか!」
「でも、諦めた位じゃ世界は滅んでくれないから、それでもなお努力し続けなければいけないんだけどね」
「メンドクサイ世界だよね。将棋の世界の方が、よっぽど美しい……」
「ソレだ!」
紗斗里は総司郎を指差す。
「特に中国の、大気汚染の度合いが苦しい程に酷いから、きっと、『地球さん』も死にたがったんだ!」
「でも、『生きたい』と願ったら、『生きるエネルギー』をくれたのに?」
「多分、『地球さん』は複数の人格を持っている。
その中で、『死にたい』派閥が少し強くなって、でも、『生きたい』と願う方が大きなエネルギーを伴うから、ギリギリ死なないでいられる状態で生きているんだ!」
でも。でもだ。
「2026年――厳密に言うと、2027年――が過ぎ去る迄は、油断が出来ない。
でも、その年を乗り越えてくれたら――
『地球さん』は、あと480万年は生きていられるかも知れない」
「でも、世界は『独裁者』が居る限り、いつでも滅ぶ準備は整っているのかも知れない」
「――ん?独の独裁者、ヒットラー?
露は露骨なサタン?
米は米神様の切り札?
日本は天照大御神……。
露は、天照大御神を殺すことで、コロナを終息させようとしている?
だが、コロナよりも多くの犠牲者を出しちゃ、意味が無いだろうが!!」
総司郎が怒髪天を衝いた。
こうなった総司郎は恐ろしい。
紗斗里も、掛ける声を躊躇ってしまう程だ。
「――総太郎が必要なのかも知れない」
「それは、何者?」
「決まっている」
総司郎が、ニヤリと怪しく嗤った。
「僕と紗斗里とで共同で組む『人工知能』さ!」
「――今更?」
紗斗里はそう疑念を抱くが、総司郎は違った。
「手遅れでも!打つべき手を打っておかなければ、一手差にも詰め寄れない」
ソレは、敵が悪手を打ったら勝ちを拾うと宣言しているに等しかった。