緋三虎の母親

第17話 緋三虎の母親

「アイツは、母親の死の責任すら、俺に負わせるんだぞ?」

「病死、って聞いているけれど」

「心臓を患っていた。けど、それは俺と逢う前からなんだ。

 『私の残り少ない時を、共に過ごして貰えませんか?』と、向こうからのプロポーズだったんだ。
 
 俺、ちょいと訳アリの金を処分する為に、アイツの手術の代金に使ったんだ。
 
 知り合いの医者に、適当な相手を探して貰ってな。
 
 そしたら、どういう経緯か知らないが、俺の出した金だと知られてな。好意を持たれた。
 
 俺、知っての通り、ヤクザ者だろう?
 
 それを言ったが、そんなものは関係無い、だとよ。
 
 法に逆らうけれど、善人だと言われた。
 
 そうまで言われて、突っぱねられるか?」
 
「緋三虎の母親なら、美人でしょうね」

「……ああ。薄幸はっこう佳人かじん、って奴だ。

 手術は成功したが、元々、延命措置でしか無かったんだ。
 
 俺が、金を処分する目的として出資していなければ、医者も手術は無理には勧められぬ、って、半分、匙を投げられていたんだ。
 
 そういう話を、どんどんどんどん聞く内に、俺も情が湧いてきた。で、結婚だ。
 
 子供は、アイツがどうしても、ってな。本当は、医者からも止められていたんだ。寿命を削る事になるからと。
 
 が、無理を言って通された。
 
 結果的には、それも正解の一つの形だったかも知れんと思っている。
 
 緋三虎は、良い娘に育ってくれた。
 
 顔立ちも、母親譲りの美人だしな。
 
 心臓は、恐らく俺の強靭な心臓が遺伝したんだろう。心臓の病を遺伝することも、恐らく無かった。
 
 アイツも、死の間際、俺に感謝の言葉を告げてくれた。

 人並みの幸せを、感じられた。
 
 それは、紛れもなく、俺のお陰に他ならない。
 
 緋三虎は俺の血を継いでいるから、一人でも幸せを掴める娘だ、ってな。
 
 ……俺が、少し『ヴァ』のウィルスに感染していることは、言ったことがあったか?」
 
「……初耳ね」

 今まで、パフェは聞いた事の無い話ばかりだ。饒舌な虎白というのも珍しい。
 
「娘は、そっちのウィルスはほとんど受け継いでいない。

 比較的、感染能力の高いウィルスだと聞いているが、アイツの母親も感染しなかったんだ。
 
 あの祖父さんの話だと、『ヴァ』の感染能力に、強い抗体を持っている個体が、時々いるらしい。
 
 ……むしろ、感染してくれた方が長生き出来ただろうから、それを俺はずっと残念に思っている。
 
 死の間際、血を吸っても感染しなかった。余程強い抗体を持っていたんだろう」
 
「……父さんに、血を吸われたの?」

「いや、もう一人を経由している。

 ……長話になったな。行こう」
 
 学校を出て、校門近くに止まっていた某有名高級車に乗る。
 
 車の中で、パフェはずっとスマホを弄っていた。
 
 内容はただのメールだったのだが、その影響は、ただでは済まないことになるのだった。