最終話 絶望
卯辰は虚しさを覚えた。
何に?
生きる事にだ。
eスポーツプレイヤーとしても、スポンサーの一つでも付くわけでもなく。
ただ漠然とこの『審判の日』をプレイすることに、意義を見失ったのだ。
戦闘が、楽しい訳がない。
ソレは、リアルになればなるほど、罪悪感を抱くのが普通の感覚だ。
卯辰は当初、『魔王』を人間の事だとは思っていなかった。
違うのだ。大罪を犯した人間の極致が『魔王』なのだ。
しかし、魔王の殆どは堕天使だ。
ある宗教が恐れた『七つの大罪』に染まった天使を、堕天使とした上で、あまりに恐れる余りから『魔王』としたのだ。
その極致に陥ったが最後、余りの『頭の悪さ』故に、拾える成功も拾えなくなる。
つまりはそう云う事なのだ。
そして、卯辰はゲーム内ではPCでも、現実にはルシファー兼サタンなのだ。
だから、子供の頃から、周囲から『イジメても許される』等と扱われ、ソレが故に『左端』と云う恐ろしい領域に到達したのだ。
そんな、絶望的な状態に陥って尚、頑張れる訳が無い。
せいぜい人の模倣が精一杯だ。
そうして、自らを呪う連鎖で、手の打ちようが分からなくなる。
そもそも、最低でも7人の犠牲者を出すことを、ヨゲンしてしまったら、周囲からイジメられるのも当然ではないか。
アイツは、最低でも7人は見捨てたのである。もっと言うと、サクリファイスしたのだ。
神の脅しに屈し、未来に犠牲者を生み出す。それの何処が聖人だ?
ヨゲンが当たった?だから何だ。理に適ったヨゲンは、当たるように世界がそう出来上がっている。
何なら、試してみるといい。理に適ったヨゲンは、いつか当たる筈だ。
宝くじを当てる?当てているものは少ないながらも毎回のように居る。そう、ヨゲンした本人が当たると云う訳では限らないのだ。
見本を見せるべきだろうか?あまり気が進まないが。
では、一つ。……と思ったが、気が変わった。止しておくことにしよう。
皮肉な事に、『七大魔王』と云う存在は、中々死なない。
簡単に死ぬのならば、サタンの内、最凶最悪のものは、とっくに死んでいる筈だ。コロナによって。
だが、彼が亡くなっても、その遺志を継ぐ、癸巳のサタンが現れる筈だ。
故に、卯辰は絶望した。
いっそのこと、全てのサタンに致死性の呪いを掛けようかと思う位には。
故に、卯辰は死ぬ。その際に、恐らく未曽有の大災害が世界の何処かで起こることを確信しながら。
死後の運命も知っている。
超巨大恒星の中心で、概念の喪失まで焼き尽くされるのだ。
死後に苦しみも感覚も無い。それが、唯一の救いであろう。