第32話 納品
自警団の方では、最近、ちょっと困ったことになっていた。
『αシステム』によると思われるイタズラが、急激に増加したのだ。
「団長、お客様です」
「ム?通してくれ」
そこへムーン=ノトスはやって来た。
「……!ノトス殿か!」
「今日は、商談があって寄らせていただいた」
「――商談?」
「ああ」
そう云って、ノトスは袋を団長に差し出した。
「新作、『秩序の鬼』のコア、10個だ。
他のコアの機能に干渉する能力を持っている。
具体的に云えば、攻性機能の停止程度ならば、十分に役立つ」
「それは……ありがたいが、安い物ではあるまい?」
「一個、金貨一枚でどうか?」
「それならばすぐに払えるが……。
試しに、使い物になるものなのか、試験運用をしたいのだが」
「ああ。十個全部、試してくれて構わない」
早速団長は、団員に準備を呼び掛けた。すぐにも、用意が整う。
「コアのサイズは?」
「直径5㎝。来週になれば、直径4㎝の物も納品できる」
「どれ……試させて貰おうか」
団長はコア一個の梱包を解いて、そのコアを用意した杖の末端に填めた。
「攻性機能の停止程度ならば、十分に役立つと言っていたな。
おい、そこのお前。『αシステム』でファイア・ボールでも作ってみよ」
「はい!」
返事は良かったものの、その団員はいつまで経ってもファイア・ボールを作ることが出来なかった。
「団長、出来ません!」
「他の攻性効果は発揮出来ないか?」
「試してみますが……」
団員はそれを試みるも――
「団長、出来ません!」
「良し!コレは使える!
全部試して良いんだったか?」
「ああ。時間はあるから、ゆっくりやってくれ」
そうして、一時間程度でコアの性能の検証は済んだ。
「……とんでもないコアだと思うが、本当にコレをこれだけの数、計金貨10枚で売って貰えるのか?」
「ああ。経費で落ちるだろう。ココにこそ必要と思って持って来た。
悪用する事の無いよう、よろしく頼む」
「自警団がコアの悪用をするようじゃ、大問題だろう。
人員を厳選して貸与したい。
ちょっと待っててくれ。代金を取って来る」
コアを放置して代金を取りに行くのは如何なものかと思いながらも、ノトスはコアを10個並べた状態で待った。
「お待たせした。金貨10枚だ」
「確かに」
本当は、ノトスとしてはもっと安く売っても良かった。だが、ヘタな安売りはコアの値崩れを起こす。それ故の一個金貨一枚だ。
値引かれても良いとまで思っていたが、自警団の団長はソレが一個金貨一枚の価値があると見込んだ。
ならば、敢えて値引く必要もあるまい。ノトスはそう考えた。
その時、何処かで――具体的に云えば、ノトスの研究室の辺りから――爆音が聞こえて来た。