第33話 筆頭優勝候補
「蒼木が逃げたぁっ!」
大会本戦当日。圭は会場で百合音と美菜を見つけると、開口一番、そう吠えた。
圭の後ろには、ケントと真次も立っている。三人揃って、真っ青な顔をしている。
「何を言っているんですか?」
キョトンとした顔をして、百合音。
「羅閃なら、あそこの筐体で練習試合やってるけど?」
「「「何ぃっ!?」」」
美菜の指差す、かなり大きなスクリーン。そこに映し出されているキャラクターの一方は、紛れも無く羅閃の持ちキャラ・ジャックだった。
「あンンンンの野郎!一週間も姿を消したかと思えば、何の音沙汰も無しに!」
「しかも、一人のうのうと練習なんぞしてやがる!」
「俺たちが、どれだけ心配したと……!」
三人は握った拳に怒りを込め、そして同時にこう言う。
「「「許せん!」」」
「どうでもいいけど、練習しないの?急がないと、時間がそろそろ際どいと思うけど?」
美菜が言った時、ちょうどタイミング良く、会場にアナウンスが流れ始めた。
『これにて、筐体の練習用の解放を終了させていただきます。
尚、開会式は10時から……』
広い会場に、幾つも設置されたスピーカーが、微妙に違って聞こえるタイミングで同じ声を流し、さながらエコーがかかっているかのように聞こえた。
筐体から出て来た羅閃は、三人に絡まれて言い争いになる。それがひと段落ついたころに、開会式は始まった。
戦いを前にして興奮気味の参加者の気を揉ませぬよう、早々にそれは終えられ、スクリーンに戦場が写し出されると、叫ぶような歓声が上がった。
流れ出したBGMも、声とは思えぬ音の波に飲み込まれて雑音と化した。
そんな中、一回戦の最初のカードが、アナウンスのみならずスクリーンも使って発表され始めた。
『……早速登場しました、優勝候補の筆頭・去年の優勝チーム、パンツァークロイツァ。
対するは、今年初参加のチーム・新撰……』
観衆が更に沸き上がる。
だが、彼らは未だ、優勝候補の一角がすぐに崩れ去ってしまうことを知らなかった。