穢れの撲滅

第29話 穢れの撲滅

 その計画は、秘密裏に進められた。

「全員、僕たちに従って下さい」

 紗斗里が『妙案がある』と『クルセイダー』に話を持ち掛け、総司郎と共に喫茶『エルサレム』に居た。

「これより、病魔撲滅計画を始動させます」

 隼那・恭次の二人が凍り付いた。

「待って!まさか、完全なる撲滅を目指すの?!」

「はい。あんなもの、害悪でしかありませんから」

「でも!ソレのお陰で、未だ露は北海道に侵攻出来ないで居るのよ!」

「露兵が北海道に侵攻して来たら、僕らが協力して彼らも撲滅します」

「せめて、自衛隊とは協力しない?」

「自衛隊とのコネがありません。

 それに――」

「それに、何?」

 紗斗里は右手の人差し指を蟀谷こめかみに当て、考え込んだ。

 露との戦争が起こりそうな場合、自衛隊が『軍』として機能し、日本でクーデターを起こして政権を握る可能性が捨て切れません。

 そんな彼らと協力体制、と云うのはどうにも上手くいかない気がします」

「クーデター……」

 隼那も、その可能性を考えなかった訳では無い。だが、非常に低い可能性だと信じていた。

「でも!……露と戦争する事になったら、頭数が足りないわ」

「心配要りません。僕たちは、世界の裏側から北海道を護るのですから」

「世界の……裏側?」

「真実の世界の扉を開きます。又の名を、『常世』と云いますが、ココの穢れの一切を駆除せねばなりません。

 因みに、真実の世界は過去も未来も同時に存在します。

 かつて、その世界で『けがれ』を限り無く広めた阿呆がいます」

「――待って。なら、先にその阿呆を仕留めなければならないのではないの?」

「それは意味がありません。この世界の管理者こそが、その人物だからです」

「それは――阿呆と呼んでも大丈夫なの?」

「大丈夫です。僕らをコントロール下に置きながら、『阿呆』と発言させているのですから。

 本人も、『悪ノリが過ぎた』程度には反省もしているのでしょう。

 問題は、『穢れ』が時間軸で過去に向かって、半無限大に広められてしまった事でしょう。

 その『穢れ』の元を始末します」

「それって……私たちの手だけで出来る事なの……?」

「過去のある一点で『穢れ』の広まりを抑えた者が、恐らく居ます。

 その一点に至るまでの時間軸を、全て浄化して『穢れ』を払えば、恐らく!……コロナ禍すらも完全に沈黙させられるでしょう。

 但し、相当に困難な事は予想されます。

 そもそもが、真実の世界に至る『ゲート』を作るのも、僕らですら確実に出来る事ではありませんから」

「まさか……『レベル30相当』と云っていた、あのゲート?」

「その亜種となります。

 さあ、今も過去に向かって半無限大に『穢れ』の塊が広められていますから、サッサと覚悟を決めて下さい。

 僕か総司郎が、必ずや『真実の世界へのゲート』を開きます」

「待って!『穢れ』の処分の方法も聴いていないのよ?

 せめて、処分の方法位は教えて頂戴」

「そうですね……。

 『穢れ』の濁りを取って下さい。『毛刈れ』であれば、問題は無いでしょう」

「……ソレって、私たちが行うの?」

「いえ。恐らくですが、時間を少々要しますが、あの阿呆が『毛刈れ』を行って下さるでしょう。

 後は、羊飼いにでも頼んで、『毛刈れ』を行えば、問題無いように思われます」

「羊飼いを見付ける迄は?どうすれば良いの?」

「『穢れ』を確保しておいて下さい。

 最悪の場合でも、僕が何とか出来ます。

 大変なのは、『穢れ』の塊を集める事ですから。

 時間軸で過去にも未来にも向かって、半無限大に『穢れ』を広めたのがあの阿呆ですから、この件に際して、あの阿呆は協力的な筈です。

 ――はすの花もあれば、尚良かったのですが、何せ、価格も高くて数も限られて居まして……。

 花弁位でしたら、用意出来たのですが、花弁では意味が無いもので……」

「まさか……『黒蓮の花』……?」

「ええ。切り札として強力ですが、ソレ単独では意味が無い事も難点なのですよね……」

「ソレが、『虎列刺コレラ亜種あしゅ』の特効薬たり得るの?」

「いえ。特効薬の作成・拡散の種を宿すのみです」

「待って。『白蓮の花』ではダメなの?」

「より良いとは思いますが、『白蓮花』と縮めてしまった方が良いでしょうね。

 全く。欧米は、縁起の悪い事を齎す天才ですね。

 人類が皆、日本の『神道』を信仰するようになれば、どれだけ良い事か……。

 いえ。日本の『神道』にも、疫病神や死神、貧乏神が居ますから、正しく信仰しなければ、意味が無くなりますね。

 この際、ソレラの縁起の悪い神様を、正しく畏れる事が重要になりそうですね。

 畏れる余り、信仰してしまうのは最悪の結末を招くかと」

 隼那は、こう云う紗斗里に対して、正しく『畏れて』居られるだろうかと、そればかりが心配になるのであった。