祖父さんの金銭事情

第19話 祖父さんの金銭事情

 さて。
 
 次は、祖父さんを問いただす番だ。
 
「一体、あのお金は、どういうつもりで要求したのかしら?」

 冷たい声と眼差しに、祖父さんも乾いた笑いを上げ、冷や汗を垂らす。
 
「誤魔化しなんか、通じると思う?」

「いや……少々、金に困ってのぅ……」

「怪しい研究の資金が?」

「ハハハハハハハ」

 やはり、そういう事情だったらしい。
 
「虎白オジサンに、持ち帰って貰って良いかしら?」

「そ、それは――」

「構わないわよね?」

 パフェは、伯爵にとって最大のウィークポイント。逆らえる筈も無い。
 
「――そうじゃ!

 李花にも、分け前をくれてやろう!」
 
 まるで名案を思い付いたかのように言う伯爵。
 
「それで、時代劇に出て来る悪代官の如く、見逃すとでも思うの?」

「少しぐらい、見逃してくれても良いではないか」

「1500万の、どこが少しなのかしら?」

「……緋三虎ちゃんは、父にとっては端金程度の金額と言ったんじゃ!」

「祖父ちゃんにとっては、端金では無いでしょう?」

「失礼な!

 儂の財産は、唸る程あるわ!
 
 城など、売れば幾らでも出す者もいるはずじゃ!」
 
「なら、その程度の金額なんて、捻り出すのも容易でしょうね」

 伯爵は、小声で「しもうた……」と、軽率な発言を後悔する。
 
「とにかく!

 あのお金は!持ち帰ってもらうからね!」
 
「そんな、殺生な……」

「お金が欲しければ、お金になる研究をする事ね」

「それが出来るなら、とっくにしとるわい。

 とほほ……」
 
「祖父ちゃんも、父さんみたいに、作家でも目指せば良いじゃない。

 祖父ちゃんの目から見た、世界の有り様でも書いてさ。
 
 ヴァンパイアになる方法でも良いし」
 
「そんな危険な事は出来ん!

 じゃが、ウィルスを都合良く進化させる技術は、現世に伝えるのも有益かも知れぬな。
 
 ……儂の研究の成果を発表するのに、本としての出版は、有効かも知れぬ。
 
 むぅ……。そうなると、あの小僧に相談するのが手っ取り早そうじゃ」
 
 あの小僧。誰の事を指すのかを、パフェは0.3秒で気付いた。
 
「オヤジのこと?」

「うむ。曲がりなりにも作家の、それも、それなりの売れっ子。

 出版社に紹介してもらうのも、良いだろうし」
 
「公募への応募方法も、教えさせるわ。その程度の協力なら、アタシも惜しまない」

「世話をかけさせて、済まんのぅ……」

 そう言って、伯爵は咳き込んで老いを主張するのだった。