第14話 研究
ムーンは、カメットとリックに少し多めの報酬を出して、学園への帰還を求めた。
原因は、今回の採掘で得た一冊の書物から、重要な情報が発見されたが故。
「まさか、真球率が関わっているとはな。道理で、大きく作れば性能を発揮する訳だ」
ムーンがこれまでに作り出したコアの真球率は、99.99%が良いところ。巨大化すれば、見掛けの真球率は上がる。
だが、PECS――即ち個人用にする為には、最低でも99.99999%、理想的には99.9999999%程の真球率が求められる事が判明した。
因みに、世界最小のPECS――『αシステム』であるアースに渡した指輪は、推定で99.99999999999%の真球率があるであろうとの、ムーンの予測である。
そも、X機関のコアというものは、どういうものであろうか?
その正体は、水の『Alpherion結晶』である。正八面体の形に配置された、水分子による結晶である。
材料は、本当に水のみ。正確に云えば、『超純水』である。
「果たして、前人は如何様な技術を以って、そこまでの真球率を達成したのであろうか?
その技術が失われたが故に、コアの小型化が行われなくなった、という訳か」
現に、ムーンは今以上の『真球化』を思い付かない。
ただ磨けば良いという訳でも無い。表面を削ったとして、一つの水分子を削ってしまえば、一つの『Alpherion結晶』が崩壊し、結果――
「――真球率が、下がる。
二律背反という奴だな」
そもそもが、『精密機械』と呼ばれるタイプの機械化の技術が失われているのだ。まずは、その技術を再現せねばならない。
「――果たして、何年かかるのやら――」
ソレには、一応の答えが既に出ている。
ムーンの手に依れば、100年。他の者ならば500年。
「――そんな悠長な事を言っていられる場合か?」
小さくなればなるほど、一つの傷が致命的になる。
ならば――
「99.9999999%の鉄の真球を作り、それを型として、99.99999%程度の真球型が出来れば上出来か……?」
否、とムーンは判断した。
そも、99.99999%程度の真球なら、『Alpherion結晶』を作る際に魔法の制御が完璧なら、出来そうな気がする。
その位なら、直径10センチ程で作れそうだし、出力として、恐らく『αシステム』として問題無い。
後は、内部に魔法で立体魔方陣を描き、属性を与えれば十二分に『パーソナル』なX機関となる。立派な『αシステム』だ。
100%真球は、理論上不可能だ。どんな物質にも、粒子単位の『大きさ』がある。
ソレが、『Alpherion結晶』の場合、少々大き過ぎると云う話である。
だが――
「試さない、と云う手は無いな」
ムーンは、一つの清潔な水槽を用意した。
その中に、『αシステム』で『超純水』を作り出して8割程まで注ぎ、手を突っ込む。
『αシステム』で『Alpherion結晶』の真球をイメージして水槽内にコアを作成する。
出来上がったら、コアを手で掴み、取り出して乾かす。
目的とする『真球率』を達成できたかを計る精密計器は無い。故に、『αシステム』頼りになる。
「厳密計測……。
フム。99.99997%と云ったところか」
十分である。となれば、あとは経験に基づく技術の向上さえ伴えば、いずれは小型の『αシステム』も出来そうである。
後は、内部に立体魔方陣を『αシステム』を用いて描くだけである。
「――今回は『光の僧侶』としておこうか」
決断が下れば、後はそれを出来るだけ厳密に描くだけである。この段階で失敗すれば、性能に影響する。
八芒星の立体化。頂点の数は26個になる。色は、白濁した黄色。
「――良し、完成だ」
性能計測。完全体の90%を上回る性能があるようだ。十分であろう。
「フム、これは……やはり、もう少しの小型化を狙いたいな」
そうして、ムーンの研究は夜中まで続くのであった。