第40話 皇帝ゼノの目的
「吐き出せ!レズィン!」
動き出したのはシヴァンだった。
掠れた声で叫ぶと、血まみれになった姿を瓦礫の上に現した。
「行こう、レズィン」
「待てよ!シヴァンが!」
「もう、シヴァンなんていらない。レズィンさえいればいいもの。
ねぇ、いっしょにワインのもうよぉ」
仕舞いには駄々を捏ねるようにして、レズィンの袖を引っ張り出した。
ラフィアの言葉に、姉妹揃って酒癖が悪いのかと、レズィンは頭が痛くなってきた。
「兎に角、シヴァンの治療が先だ」
ラフィアの手を振り払って、レズィンはシヴァンの下へと駆け付ける。
「大丈夫か?」
肩を貸して立ち上がらせると、シヴァンは体重をレズィンに預け、その耳元に口を寄せた。
「姉さんを、止めてくれ」
「いいから、黙ってろ。
医務室に運んでやるからな。
ラフィア!行くぞ!」
振り向いたレズィンの目の前に、ラフィアは立っていた。俯いている為、表情は見えない。
手には、そこら中を這っていた朝顔モドキの蔓が握られている。
「わたしの……わたしのレズィンをとらないで!」
泣き叫びながら、ラフィアは手にしていた物をシヴァンに叩き付ける。
振り切った後にはソレは一振りの剣に姿を変えており、銃弾すら弾いた筈のシヴァンの肌を、浅くだが切り裂いていた。
シヴァンの顔が、苦痛に歪んでいる。
「何てことをするんだ、ラフィア!」
レズィンの怒鳴り声にラフィアはビクッと身体を縮ませ、怯えるような表情を見せた。
レズィンはラフィアの手から剣を毟り取ると、それを後ろに放り投げた。
「わたしに、わたしにやさしくしてよぉ!」
ザワザワ。
ラフィアの叫び声で、辺りの朝顔モドキが一斉に蠢き出した。
不気味な光景に、レズィンは思わず後退りする。
「ラフィアー!」
頭上から、声が聞こえて来た。
続いて徐々に近づいて来る足音も。
声は皇帝のものに違いなかったが、現れたのは仮面を被った顔では無く、見覚えの無い若い男のものだった。
「何が不満だったんだ!教えてくれ!」
天井の穴から顔を見せた皇帝は、そのままの体勢で云う。
「あんなものを見せる貴様も悪い!」
シヴァンが苦しそうに怒声を上げた。皇帝はソレに対して「要求通りにした筈だ」と怒鳴り返す。
「……何があったんだ、一体?」
「エセルという女の、生首の氷漬けを見せられた。
酔っていた姉さんが、ソレでキレた」
「あんなのエセルじゃない!」
ラフィアが首を激しく横に振り、全身で拒絶の意を示す。
見たものを信じたくなくなるほどの大きなショックを受けたのだろう。
皇帝が、穴の上から飛び降りる。
レズィンとシヴァンには目もくれず、ラフィアの傍へと近寄って行く。
そしてラフィアの肩へと伸ばした手が、ラフィアによって弾かれる。
「……アンタ、最初からラフィアが目的だったのか?」