第38話 百合音の想い
――百合音サイド――
考えてみれば、本当にこれで良かったのかな……。
大事な試合を目の前に控えているのに、私の心には躊躇いが残っていた。
美菜のお陰で、こんなことになってしまった。勿論、そのこと自体には文句は無いけれども……。
「蒼木さん、本当はどう思っているんだろう?」
美菜の紹介でバイトに来ていた時には、私の事なんてちっとも気にかけてはくれなかった。
それどころか、私の名前すら憶えていてくれなかった。
私は電子掲示板でチームメイト募集の欄、そのチームメイトの名前の中に蒼木さんの名前を見付けた時、迷うことなくそれに応募した。
それに、あのキス……。誰にでもあんなことをするのかな……。
蒼木さんがどういうつもりであんなことをしたのかは知らないけど、もう頭が真っ白になってしまって、気がついたらヘヴィータンクにまで打ち負けていた。
何もかもが悔しくなって、色々と口走ってしまったような覚えはあるけれど……嫌われていなければいいな……。
今は私のことが分からなかった理由も判明して、そのことは……半分、嬉しくもある。
思い出すだけで、胸の高鳴りが止められなくなってしまう程に。
あとの半分は……ライトタンクが負けた悔しさがほとんど。
『READY?』
声が聞こえて、ビクッと身を竦ませた。
そうだ、今は考え事なんてしている場合じゃなかった。
まずはこの試合に勝たないと……。
「お願い……。今回だけは、誰も邪魔しないで……!」
私は初めて、切実に試合に勝ちたいと思い、胸の前で手を組み合わせ、祈っていた。