第50話 療君のお仕事
クルセイダーによる金策は、当初、上手くいっていた。
が、ある日を境に、パッタリと依頼が尽きた。
それでも10日に一度は依頼があるのだから、贅沢は言っていられないが。
「……誰かが、もっと安く『Swan』による治療をしているようね」
「……誰が、ですか?」
療は隼那に尋ねる。
「恐らくは――『セレスティアル・ヴィジタント』」
「――敵、ですね。明確に」
「どうしましょう……」
厄介な事に、『セレスティアル・ヴィジタント』は日本の制圧の仕方を知っている。
だが、隼那は一旦、その考えを進める事を止めた。
「とりあえず、私たちはアフターケアを手厚くしましょう。
金額は据え置きで。
これでも、前よりは多くの治療をしているんだから。
文句は言えない。いえ、言わない。
ただ……『セレスティアル・ヴィジタント』にお金が流れるのが嫌よねぇ……」
「大丈夫です。
コレは希望的観測ではありますが、ソチラの治療の精度は、僕の治療より甘いことが予想されます。
ですから、アチラで治療が出来なかった難病患者は、コチラに流れて来るものと予想出来ます。
生半可に、式城 紗斗里さんから『Swan』の適性を見抜かれた訳ではありません。
ただ、依頼者の経済状況が良くなければ、支払いは困難かと思われますが」
「ゴメンナサイねぇ。貴方にばかり負担を掛けて。
何らかの形で、この借りは返すわ」
「何を仰いますか。コレこそが僕の仕事。僕の存在意義です。
遣り甲斐は感じますが、負担と感じた事はありません」
「そう。そう言って貰えると助かるわぁ。
それでも、この借りは何らかの形で返すわ」
「貸しとも思っていませんけどね」
隼那は、勘違いをしていた。
療は、この仕事に就く前、自分の存在意義に悩む、思春期の男の子だったのだ。
遣り甲斐を感じる。この事実が、どれだけ療を支える存在意義になっていることか。
その辺りを、隼那は全く理解していないのだった。
「ただ――」
「……『ただ』、何?」
「いえ。式城 紗斗里さんは、この事態をどう捉えているのか、気になりましたもので……」
「――判ったわ。
一度、紗斗里ちゃんのご意向を確認しておきましょう。
じゃあ、療君。次の依頼があるまで、待っていて頂戴ね。
――送ってく?」
「いえ。定期で帰れる範囲内ですので」
「そう。
じゃあ、私は紗斗里ちゃんに会いに行ってくるわ。
――っと。アポイントを取っておかないとね。
えーと……」
隼那がハイパースマホを取り出すのを見て、療は帰路に就くのであった。