第24話 異世界の接点
ココまでの可能性を、楓は秘密のサイコソフト『ラプラス』によって先読みしていた。
だが、ココから先がどうなるのか、イマイチ確りと未来が見えない。
バタフライエフェクトレベルの努力で、楓は北海道を護るべく、動いていた。
一時は、天界が『永劫回帰』の宿命に陥りそうになって、楓が人を使って天界を乱させた。
その『乱れ』が、天界の運命を良くするものならば良いのだが……。
否、天界では今、その『乱れ』の整理に必死になっている可能性が高い。
だとするならば、『天界』は永劫回帰の宿命を求めているのだろうか?
あの時、『天界』は永劫回帰の宿命に陥るのを防ごうと必死そうだったが。
この先の未来、何がどう変わってどう移ろうのかは謎だが、『幸運』は拾った者勝ちなのであろう。
その代わりに、コチラには『豪運』があるが。
そして、『SCAI』式城 紗斗里と式城 総司郎は、一つのある見解を示しつつあった。
即ち、世界と世界の接点の発生。『常世』なのかどうかは判らないが、一度は終わって閉じてしまった筈の世界。
その接点は、式城 紗斗里の手によって作られる。
――吸血鬼の存在する世界へと。
式城 紗斗里は、楓と接続してトランスモードに入る事で、レベル10、即ち、理論上の上限値を上回る程もの超能力を使える状態になる。
そして、その状態であれば、『転移ゲート』を発生させる事も出来た。
その転移ゲートから、一人の人が侵入して来た後、驚いたような表情を見せた。
「……ん?
コレは、神隠しと云う奴かな?
迷い込んではならぬ場所に迷い込んでしまったようだ」
「スミマセン。僕が貴方を招き入れました」
紗斗里はそう言って謝罪する。そして。
「北海道が、露から侵攻される危機にあります。
――力を貸していただけませんか、『結城 狼牙』さん」
「おや。僕の名前を知っているのかい。
初めまして、可愛いお嬢ちゃん」
狼牙は深々とお辞儀をする。
「――で?何故、僕なのかな?」
「接点が近い世界が、其方でしたもので」
「接点?まさか、二つの世界に接点を作り、その接点から僕だけ招き入れたとでも言うのかい?」
「はい」
紗斗里は頷く。
だが、狼牙にとっては、見過ごせない話だった。
「此方の世界には、ウィルスが蔓延している。ソレを承知の上で招き寄せたのかい?」
「今は、此方の世界にも其方の世界と同等か、ソレ以上のウィルスが蔓延しています。
なので、ウィルスに耐性を持っている方の方が良いかと思いまして」
「其方にも?
失礼かも知れないが、どんなウィルスが蔓延しているのか、ご教授願えないかね?」
「『コレラ亜種』です」
「ハッ!」
狼牙は嘲笑した。
「そんな洒落にならない程の驚異的なウィルスを、何故、対策して防がないのかね?
冗談ではなく、『頭が悪い』としか言えないが」
「サタンの逆鱗に触れたサタンが居ましたもので」
「愚かな……。して、双方のサタンはどうなったね?」
「一方は無事。もう一方は、亡くなった可能性があるものの、影武者が少なくとも7人居る様子でして――」
「影武者!
サタンの影武者となるならば、辰年の生まれでなくともサタンへと至り、『呪い』の効果を受けると、その事実を知りもしないのかね?」
「恐らく……」
「ハッ!」
狼牙は再び嘲笑した。
「愚かにも程があるよ。
『怒り狂う』のは、ただそれだけで『大罪』たる運命を知らぬと云う事か!」
「それ故に、本人は亡くなったと云う説が流れています」
「……沈着冷静な影武者が居た場合、呪いを以てしても仕留められぬと思うが」
「貴方なら、暗殺者など、お手の物ですよね?」
「如何にも。先祖代々伝わる秘伝の『呪い』、それも、『呪殺』すら可能な呪いの術を知っているが、それを使えと云う事かね?」
「その通りです」
一瞬、紗斗里は歓喜の表情を見せた。
「ソレは、『呪い返し』によって、僕が死ぬかも知れない事実を承知の上で、『呪殺』しろと言うかね?」
「貴方は、『呪い返し』が怖いのですか?」
「一応、式代は複数用意してあるが、必ずしも式代が呪殺の全てを阻んでくれるものとは限らない。
まぁ、僕は滅多な事では死なぬがね」
「では、引き受けていただけますか?」
「断ろう!
僕とて、いつかは死ぬ。
寿命と引き換えに引き受けるには、報酬が十分では無い」
「……北海道を見捨てる事になっても?」
「――君は随分と相手の弱みに付け込むのだね」
そうして、狼牙は「ハァーッ」と息を吐いた。
「暗殺は引き受けよう。だが、『呪殺』と云う手段は最終兵器だ。
僕を露に送り込んでくれたまえ。たっぷりと血を吸って来ようぞ!」
「それで構いません。
それで、準備は必要ですか?
それとも、今すぐテレポートしてロシアに侵入しますか?」
「今すぐと行こう。
サッサと事を終わらせて、僕は僕の世界へと帰る。
まぁ……乙女が血を吸う相手として最優先ではあるがね」
紗斗里は、一瞬血の気が引いた。
「では――行ってらっしゃいませ」
直後、狼牙は露へとテレポートされて辿り着くのであった。