琥珀糖

第36話 琥珀糖

 誰もが、『魔王』としての『大罪』に気付いた時、最初に芽生えるのは『色欲』らしいわ。

 だから、『色欲』を求めていたら、『覚醒初期』と見做されて、同じ段階の人としか繋がりが持てないらしいわ。

 私たちは、同一人物説がある、あの魔王たち。──それ以上は言わなくても伝わるでしょう?

 これでも、『怒り』を鎮めている方よ?

 そのせいで人生は狂ったけれども、卯月さんのお陰で幸せになれそうだし。

 後悔は、もうしたくない!

 でも、アタシに込められた魂も、未だ半分である事に気付いた。

 アタシは、他人の痛みが良く判る。特に、昼姫が感じる痛みは。

 そう、恐らくあの斎田を刺したのは、アタシと昼姫の魂が融合した故に産まれた、『第三人格』。

 『第三』であるが故に、怒り狂ったのよ!

 でも、きっとアタシたちばかりじゃないわよね。フラクタルの法則に従って、似たような体験をした人たちは、きっと、複数存在する!

 正に三日天下だった訳だわね!

 きっと、明智光秀の生まれ変わりに違いないわ!

 ──でも、自らの為に犠牲者を出したことは否めない……。

 だけど!プロのクリエイターだって、いっぱい犠牲者を出している!

 例え、予言外しをする為だったとしても、犠牲者を伴わざるを得なかったのは、世界の全てを創った神の責任よ!

 だから、アタシはアタシの主張を述べるわ!

 朝が一日を支配する時間なんだとしても、昼、即ち正午は十二支の七番目、午の刻よ!

 それなのに、『ヒルだ!』なんて言って、保育園の頃からイジメ尽くされているのよ!

 いえ、正確に言えば、3歳の頃には既にイジメ始められていたわ!

 今の昼姫の美しさを見て欲情する男なんて、いいザマよね!

 高品質な基礎化粧品のメーカーからの化粧品の提供に因る美しさだとしても、ダイエット出来ていなかったら、こんなにモテるとは思えないわ!

 その昼姫が選んだパートナー、卯月さん。『Fujiko』のアカウント名で女性だと予想していたのだけれど。

 ぞれが、こんなにハンサムさんだとは思わなかったわ!

 そんな卯月さんと昼姫が付き合っている事には、アタシとしても気分が良いわ!

 そして、昼姫に気が向いていた男共の目を逸らす為の夕姫がいる。

 更に言えば、この老師・岡本道場の男共の昼姫に対する態度は、びを売りながらも紳士的だ。

 正直、夕姫には『Kichiku』さんか『Victory』さんを伴侶として奨めたい。

 ぶっちゃけ、お金持ちだとは思うのよ。イチeスポーツと云えど、その世界ランキングで三本の指に入る上位ランカーレベルの二人が、半端なスポンサーである筈が無い。

 それに、二人に関する醜聞しゅうぶんを、正直、大したレベルで聞いた事が無い。

 それこそ、昼姫に猛アピールしていたのが、あからさまだった事が精々だ。

 そして、『プリさん』と『Venues』さんが居る。

 はっきり言えば、夕姫はチャンスを逃す可能性がある。

 老師・岡本さんが居る?確かに、お金持ちそうで妻帯者さいたいしゃでは無いらしいけれど、52歳と云う話でしょう?

 流石に、無いわぁ~。

 でも、どうなのかしらね?『プリさん』も『Venues』さんも選ばなかった相手だから、性格に致命的な欠陥でも持っているのかしら?

 あっと、老師・岡本は除くわよ。師匠としての有能さを考えた時、『プリさん』も『Venues』さんも、ワンチャンス狙っている可能性がある。

 いえ。二人とも、ベストは卯月さんだと思っていそうな事は、割と普段の態度から、露骨なのだけれど。

 何せ、こんな気遣いが出来る男よ?

「老師!皆さんに菓子を配ってもよろしいでしょうか?」

「菓子?別に構わないが、必要な者は持参している筈ぢゃぞ?」

「いえ、コレは特別なお菓子なんです」

 そう言って、卯月さんが皆に配ったのは、『琥珀糖』と云う菓子。

「──!コレ!」

 様々な色で濁った塊のゼリーみたいなソレは、昼姫の何かを刺激した。

「美味しいでしょう?

 何せ、僕が夢にまで見た菓子ですから」

 ──昼姫も夢にまで見た菓子よ!

 そうか、ココでこんな形で食べられるだなんて……。

「ああ……卯月さん、ありがとうございます!」

「いいえ、お粗末様──と云う定型の挨拶は、この菓子の場合、当て嵌まりませんね。

 ゆっくりとお召し上がり下さい」

 半分融合した身体で良かった……と、その味を味わったアタシはそう思った。

 美味すぎる、と云う表現は、この菓子の為にあった表現なのかも知れない、等とアタシは思うのだった。

 やっぱり、気遣いでもこの男、逃してはならぬ伴侶ね!

 お料理の勉強して、胃袋掴まなくちゃ!──とは思ったのだけれど、既にアタシ達が胃袋掴まれてしまった事実には、もう逃れる事は出来ないと、そう悟った。