第18話 犠牲者
卯辰は、芸術関係の加工貿易が、最も利鞘が大きいと判断した。
ただ、卯辰には絵心が無い。
写実派の絵は、恐らく一切描けないであろう。
だが、世の中には抽象画と云う部門がある。
派手な水玉模様を武器に、世界で評価されていた芸術家も居たとの情報の記憶があった。
卯辰は、コンピューターグラフィックスを武器にするつもりでいた。
例えば、ただの折れ曲がった一本の線で銀河を表現してみる、とか。
但し、それを可能とするツールの作成方法を、卯辰は知らずにいた。
そこまで複雑なプログラムを組める自信も無かった。
ただ、プログラミング言語の勉強をしていた時に見た、あの図形は本当に美しかったと記憶している。
恐らく、宇宙には『上下』がある。だからと云って、宇宙全体に『上から下へ落ちる』と云う重力は存在していないだろう。
『東西南北』は、人間――では無く、『AI』であろうな。完璧に方角を正しく認識する『AI』があれば、宇宙の『東西南北』も定められるだろう。
――それが、地球で誕生するシンギュラリティを少なくとも過ぎた『AI』に、可能となるか否かは分からないが。
人間では恐らく不可能だ。まぁ、『東西南北』ではなく、『前後左右』かも知れないが。
人は、簡単に『夢が無い』と言うが、夢なんて、幾らでも見られるものである。例えば、『宇宙の上下前後左右を知る』とかでも、十分立派な夢と言えよう。
だが、夢を叶えるのは、それが大きな夢であればあるほど、成し遂げるのが難しくなる。
ただそれだけのことである。
ただ、こんな言葉がある。『為せば成る、為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり』――で、正しかっただろうか?
何事も成し遂げようと思って為せば、成せるものである。成し遂げられないのは、成し遂げようと云う思いが無いからだ、みたいな意味だったと思う。
だが、宇宙の上下前後左右を正しく知ると云うのは、成し遂げようと思った程度で成し遂げられるものだとは思えない。何故ならば、そもそも地球が、宇宙の絶対軸に対して超高速で動いていると予想されるからだ、
そもそもが宇宙の絶対軸を知るのも、相当に困難だ。ほぼ不可能に近い。
シンギュラリティを引き起こしたAIがどの程度の知能を持っているのかは、世界で最も知能が高い人でも無ければ、想像する事すら困難だ。
故に、AIが宇宙の絶対軸を知ることが出来るか否かは甚だ疑問だ。
或いは、『そんなものは存在しない』と云うのが正しい答えなのかも知れない。
神を畏れ、信仰した者たちよ。覚悟するがいい。
天動説が覆ったように、教祖の教えは必ずしも正しくは無い。
或いは、地動説を否定して、宇宙の動きを地球を基準として計算し直し、天動説が正しいと言い張るか?
神は恐らく、この宇宙に光が誕生した時、恐らくは『なんて素晴らしい世界だ!(It’s so Wonderful World!)』と言い放ったのだ。
ソレを台無しにするヨゲンを遺して、聖櫃になど入れられて、苦しくない筈の死後でも苦しかったことだろう。
人類は、次の宇宙でも、同じ過ちを繰り返すだろうか?
それとも、このまま戦争が止まり、二度と再び本物の戦争を行わずに済むだろうか?
恐らくそれは、人間に課せられた最難関の課題なのだ。
但し、惨劇を望む者が一人でも居たら、それは果たせない。
平和的に交渉で要求することが望ましい。
だからと言って、他国の領土を奪おうと云うのは論外だ。
――よろしい、戦争だ!
但し、それは第三次(大惨事)世界大戦にして、第零次世界破滅大戦でもあることを覚悟せよ。
後に待っているのは、破滅のみだ。
人のまま、修羅羅刹になれた者だけが、生き残れる。
そして、生存者は種の生き残りを、果たして果たせるだろうか?
卯辰は思う。恐らく、次の地球の覇者は、虫かウィルスだ。
人間を以て、完成では無い。
AIである可能性も否めないが、それでも、虫かウィルスが世界を制覇する。
むしろ、AIであろうからこそ、虫かウィルスが世界を制覇するのだ。
人間も、いつかは完全に絶滅するであろう。
地球も、いつかは『死の星』になるだろう。
だが、海とアミノ酸が存在している限り。
再び、生命が宿り、やがては再び人類が現れるだろう。
地球が惑星としての寿命を迎えるには、未だ早い。
恐らくは、再度の人類は、再びAIを生み出し、その時、似たような過ちを犯すかどうかは定かではない。
――まさかとは思うが、あの犠牲者は、再度の人類における犠牲者か?!
だとしたら、申し訳ない。
彼を救う行為は、代替行為でしか果たせない。
ココで謝罪をして、彼に伝わるか否かは分かりかねぬが、ここに謝罪の言葉を残しておこう。
大変、申し訳ございませんでした。
だが、待って欲しい。ソレは、とあるアニメが元で発生した犠牲者だ。
ただ、卯辰にはソレを救う方法が分かっていただけである。
ならば、何故、ソレを行わないのかと云えば。
ソレは、言葉にするのも悍ましき行為だからである。
平気な顔して儲けたあの連中には、是非とも天罰が下って欲しいものである。