無視

第41話 無視

「そもそもが、私達では役目を果たせないのよね」

 喫茶『エルサレム』でミニパフェを食べながら、隼那が呟いた。

「私も、恭次も、苗字も名前も濁っている。

 それこそ、『式城 紗斗里』ちゃんの出番が必要だけど、そのしろの『楓』ちゃんには濁りがあるからダメ。

 探せば、誰かしら居るかも知れないけど……」

「それこそ、もう一度ゲートを開いて、誰かを呼び寄せるんじゃダメなのか?」

「うーん……難しいわねぇ。

 やっぱり、ココは『月』に頼った方が良いかしらね?」

「『月』……『ムーン=ノトス』か!」

「その為には、紗斗里ちゃんにまたゲートを開いて貰う必要があるのだけど……」

「借り作ってばっかりだなぁ、俺ら。

 いつか、キッチリと返したいな」

「無駄よ。

 所詮は、私たちは『兵隊』なの。

 紗斗里ちゃんは『指揮官』よ。

 私たちは、紗斗里ちゃんの指揮の下に戦っていると思わないと、対等の関係は築けないわ。

 全ては、紗斗里ちゃんの掌の上なの」

「いや……、紗斗里ちゃんですら、あの阿呆の掌の上かもよ?」

「大丈夫。あの阿呆は、能力の行使も思った通りには出来ていないから」

「それが大問題なんだろうが!」

 恭次は、声を荒立てた。

「気を付けて。『怒り』は、呪いの呼び水よ。

 とりあえず、紗斗里ちゃんにお願いしに行きましょう」

「全く。厄介な『呪い』を遺してくれやがって。

 あ、まだ死んでないのか。

 どちらにせよ、限界まで長生き出来て、70そこそこが限度だろう。

 ……何か、色々と符号が合うな。

 ロシアが、30ヵ年計画で北海道を緩やかに侵攻した場合、その成就と共に世界は破滅へ一直線~、ってな具合かよ!」

 その時、隼那が唐突に思い付いた。

「――そうね。彼女も濁っていないわ。

 ラフィア・ハスティーに依頼する、って手も残っていたわ」

「どちらにしろ異世界かよ!

 と云うか、最早異世界にしか希望を見出せないのかもな」

「『Lana』、と云う例外も存在するけれど、彼女の存在はあの阿呆にとって呪いでしか無いものね」

「あの阿呆をイジメ過ぎたツケを、今更になって、払わされているのかもなぁ……」

「保育園でイジメられていなければ、未だ救いはあったかも知れないけれど……。

 尾〇に塩!よね。双子の方は、最早名前を調べる手段も存在しないわ」

「ああ、〇崎に塩!だよな。

 ――あ!そうか。だから、あの時、『A』が『I』になったのか。

 自分で自分を呪う愚かさよ、な」

「きっと、もう絶望しか見えていないのよ。

 希望を切望していたのに、自らの運命に従って濁してしまったのよ。

 粒子レベルどころか、量子レベルでも濁しているものね」

「『次ぐ』って遠慮したのが、却って災いとなったかよ。

 せめて、ウチのメンバーに、お眼鏡に適う女性が居れば良いんだけどなぁ……」

「直接的な接触は禁じてしまったし、無理じゃないかしら?」

 だが、そんな何気ない会話が、その阿呆を助けている事実を、二人は知っていながらに無視をした。