第2話 潔白の証明
試験会場では、緊迫した空気が漂うが、恐らく最年少者であろう筈のアースは、余裕も良いところであった。
『問題4 『αシステム』こと、ペックスの正式名称を略さずに答えなさい』
アースは、『Personal Energy Control System』と、自信たっぷりに記した。
『問題7 『αシステム』の制御出来るエネルギーの属性を、5つ以上答えなさい』
心の中で、「やた♪全部分かる!」と呟いて、『天地風水火氷光闇』と記した。
『問題23 X技術の原理として、正しいものを、以下の内から一つ選びなさい。
A 『αシステム』に宿る悪魔に魂を売り渡し、契約によって魔法を使う能力を得る。
B 気温と絶対零度の温度差からエネルギーを取り出し、それをエネルギー変換のコントロール源とする。
C 神に対する信仰心に応じて、奇跡を起こす能力を授かる。
D 精霊と契約して、その属性に応じた魔法を使う能力を授かる』
もちろん、『B』と記す。
一時間半の持ち時間で、一時間以上を残しつつ、全ての解答を記した。
満点の自信すらある。
そして、カンニングを疑われない程度に周囲を探ると、皆、かなり苦戦しているようだった。
(こんなの、基礎知識なのにな……。
皆、勉強が足りないよ!)
8歳の時から、魔術師を目指して勉強を始めた彼女にとっては、楽勝も良いところ。首席での入学を、ほぼ確信した。
そして、ふと窓から街の景色を見下ろしてみると、小豆族を追う一人の青年の姿が目に入り、距離はけっこうあるのに、アースにはそれが『王子様』に見えた。
挙手して試験監督を待ち、「回答を終えました。試験会場から一度出たいのですが、よろしいでしょうか?」と小声で言うが、不正を防ぐ観点からも、それは許されない事を告げられた。
アースは、もう一度外を見てから、心の中で「王子様、絶対に受かります!」と呟き、ケアレスミスが無いか、解答をもう一度、見直し始めた。
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逃げに逃げた小豆族は、真っ赤な髭と長い髪で毛むくじゃらの土鉄族の後ろに隠れて、「爺さん、あとは任せた!」と事態を丸投げした。
「リック。またスリか?」
「スってないよ!」
「本当か?」
「うん。……スろうとしたけど、何もスってないよ!」
従来、小柄で貫禄のあるはずの、珍しく大柄な土鉄族(2メートル以上もの身長があるのだから珍し過ぎるが)は、大きく嘆息した。
間も無くやって来たムーンに、土鉄族はリックを庇うように、手を突き出して制止を求めた。
「……土鉄族、か?――にしては、大き過ぎるが……。
まぁいい。
退け。その小豆族に用がある」
「『族』を付けるな!
おいらたちはAZUKIだ!勝手に呼び名を決め付けて!」
「黙ってろ、リック。
済まぬ、青年。儂の連れが、失礼をしたらしい。
スろうとしたらしいが、スってはいないようだから、許して貰えぬか?」
「信用に足る、根拠が無い。
最低でも、身体検査はさせて貰おうか」
「こ奴は、儂にだけは嘘を言わぬ。
何もスられていない事を確認していただけぬか?」
ムーンは振り返って、ようやくスターがついて来ていないことに気付いた。
「……スられた俺の連れが、はぐれた。
身の潔白を証明したいのなら、アイツのところまで、一緒に来て貰おうか」
「おいらの云う事が信用できないって云うのかよ!」
「黙っておれ、リック。
良かろう。ついて行こう。
良いな、リック?」
「え~!」
「良・い・な?」
「……はーい」
云ったは良いが、スターの居所が分からぬムーンは、リックの言うなりになって、元来たルートを逆戻りするしか無かった。