注目

第21話 注目

「何で、負けちゃうんですか!あの程度の相手に!」

 筐体を出た俺を待っていたのは、眉を吊り上げた、降籏さんの怖くも何ともない怒り顔だった。
 
 観客の声が筐体に入る前よりも騒がしく聞こえるのは、それらの声が筐体の中までは届いていなかった為だろう。
 
「私との約束、まさか忘れた訳じゃないですよね!」

 ビシッ。
 
 人差し指を突き付けられ、ごちゃごちゃとそこで揉めるのも面倒だったので、俺は彼女を抱えて筐体から離れた。
 
 ジタバタと暴れるが、力にはそれなりに自信があるので落とす気はしない。それにしても、随分、軽いな。
 
「いやー、悪い。負けちゃった」

 既に試合を終えていた三人のところで彼女を下ろし、頭を掻きながら極めて明るく振舞った。
 
 ここで愚痴をこぼしたところで仕方が無い。
 
「良いってことよ。どちらにしろ、負けは決まっていたから。

 こん中じゃ、善戦してた方だし」
 
 セリフの内容と様子から察するに、三人とも負けたらしい。降籏さんは……たとえ一勝していても、黒星四つで敗北だ。
 
「それにしても、強かったなぁ……」

「予選の最終戦にあんなのと当たるなんて、籤運くじうんが悪かったとしか言えないね」

「ケントはスキルゲージが残ってれば、惜しかったんだけどなぁ……」

 終わってから言っていても仕方の無い事を一頻り言い終えてから。
 
「「「はぁ……」」」

 三人揃ってため息をつく。
 
「……で、第二次予選は?」

 重要なのは、まだ全てが終わった訳では無いという所だ。
 
 いつまでも後悔しているより、先の事を考えていた方が俺の性に合っている。
 
「申し込みは、しておいた。

 早ければ、午前中にひと試合位は回って来るかもな」
 
「それで負けっていうことも……」

「「うるさい」」

 余計な事を言った真次が、圭とケントに小突かれる。言わなければ良いものをと思うのだが。
 
 だが、以前、そのことについて訊ねてみたところ、彼らにとってはそのノリが良いのだと言う。
 
 改めて見てみれば、頭を擦りながら抗議する真次も、目は笑っている。
 
「そういえば……」

 圭は、不意に周囲を見渡しながら、何か訝し気な表情をして、小さな声で囁くように言った。
 
「俺たち、何となくだけど、やけに注目されている気がしないか?」

「気のせいだろ」

 ケントはあっさりと否定した。
 
 実は、俺も圭と同様、その事は気になっていた。
 
 それとなく見回せば、今も、ちらちらとこちらを見ている者が居る。
 
「……降籏さんは、目立つから」

 俺の傍で、真次が呟く。
 
 そう、柄こそ違うものの、彼女は今日も簡易愛染を着ているのだ。
 
 前回は何やら分からぬ花の柄だったが、今日は百合。
 
 中々似合っていたので褒めてあげたところ、やや恥ずかしがりながらも、喜んでいた。
 
 まぁ、それで付きまとって来るようになったのだから、内心では、言わなければ良かったのかも知れないとも、少し思っているのだが。
 
「蒼木がしっかり捕まえておいてくれれば、来年のチームメイトの心配も、無くなるんだけどな」

 ともあれ、俺たちは次の試合で、初めて彼女の持ちキャラを知る事になる筈だ。
 
「無視しないでくれよ、切実な問題なんだから」

 うるさいぞ、真次。