第17話 正しい在り方
Game Over。そんな言葉が卯辰にはイメージされた。
だが、実際は、ゲームから解放されたのだ。
『ルール』と云う支配から逃れる。
それは、本当の自由だったかも知れない。
そりゃ、電脳世界で命令すれば、空ぐらいは飛べる。
ゲームのルールに支配されていたが故に封印されていた、卯辰の命令能力。
基本情報の資格ぐらいは持っている。だが、応用情報は、専門の仕事に就く訳でも無いのだし、それを取る必要性を感じなかったと云うのもある。
だが、基本的な命令の仕方を知っていれば、それだけで問題は無いのだ。
だからと云って、卯辰は無法者になるつもりは無かった。
だが、お金と云うものは、誰かが得れば、誰かが失う、とは限らない概念だ。
卯辰の場合、無から命令でお金を得る事が可能だった。
その際に、他の誰かの財産に被害は無い。
故に、『コンピューター憲法』に引っ掛からず、ほぼ無限大のお金を得た。
あとは、それを財産にするだけである。
お金で財産を得るのは、『財産の被害』ではなく、『正当な取引』。
故に、卯辰が財産を得るのも、『コンピューター憲法』に反しなかった。
人間の定める法律によって、無からお金を生み出すのは、何らかの犯罪に当たるだろう。
だが、『コンピューター憲法』の前では、『ルールに則った』行為なのだ。
ズルい。正に『チート』。だが、それは知識があれば、誰でも出来るのだ。
法律にも反しない形なら、『チート』ですら無くなる。つまり、『加工貿易』を行って稼げば良いのだ。
卯辰は『違法なお金の入手』を一度試した後、その手段を自ら禁じた。当然、時効まではバレたら罰せられる。
コンピューターは、『コンピューター憲法』の他に、法律は無かった。但し、ルールは存在する。ルールに従って、命令を処理するのだ。
だが、ある掛け声を元に、2D6を振って、三回に一回、『11』の出目を出す確率の偏りを、『ルール違反』とすることは無い。
それでも、ある一部の人たちからすると、その確率の偏りは『ズルい』のだ。
だから、ズルかったら何でも禁じると云うのは、正しいルールの在り方では無い。
故に、卯辰は思うのだ。
法律に反しない範囲内で、ズルい儲け方をしても許されるだろう、と。
この、『法律に反しない範囲内』と云うのが重要で、それを破る者が、社会の治安を乱すのだ。
尤も、再度のパンデミックをヨゲンしたのは、『法律に反しない範囲内』であっても、『悪い』事だとは卯辰は知っている。
だが、ヨゲンが当たるから『聖人』と見做すのは、それも『悪い』事だと主張したい訳だ。
よって、『世界の終わる条件』をヨゲンした者たちが、今現在、悪い人たちを『犯罪』に走らせていると云う事実を、重く受け止めてもらいたいものだ。
ただ、ソイツラは、もしも世界に終わりが来なかったとしたら、どうするつもりであろう?と、甚だ疑問に思うのであった。
1999年に、世界は終わらなかった。その事実を、真剣に見据えて貰いたいものだ。
全人類が協力すれば、きっと、世界の終わりは果てしなき未来に起こるのだと。
それが、人として正しい在り方だと、卯辰は思う。