第26話 植物学者の発見
「けど、半分は俺のせいだろう」
フィネットは首を横に振り、躊躇いがちにポツリ、ポツリと語り出した。
「……ウチの両親の話、レズィンさんは聞いた事無いでしょ?
二人共、植物学者だったんだ。結構、有名だったんだよ?
100年位前から、植物が異常繁殖し始めたのは、知ってるでしょ?
それの研究もやってた。特に、新種の植物の研究をやってて。
でも、ずっと駄目だったんだ。
新しい植物の種を見付けて来たって言ってて育ててみたら、タンポポとか、ただの雑草だったとか、そう云う事が何度も続いて。
けど、何年も調べていたら、それが実は新種の植物だった事が分かったの。
幾つもの形態を記憶していて、そのうちのどれかに一代で変化する。特殊な植物だって。
新しく見つかった植物は、全部そうなの。一種類の植物なの。凄い発見でしょ?
その事が国にも認められて……兄貴が軍に入ったのも、その頃かな。
レズィンさんと知り合う、五年か四年ぐらい前、それに関わる研究を、国の援助を受けて本格的に始めたの。
それから一年位経ってからかな。凄い発見をしたって言って、国の偉い人に呼ばれたの。
どんな発見なのか、帰って来てから教えてくれるって言って。
……でも、それも駄目になっちゃった。
死んじゃったんだ、父さんも母さんも」
悲し気な顔はせず、微かに笑って。しかし、目だけは何処か、悲しそう。
理由を聞くべきじゃないのかなとレズィンが思っていると、フィネットはまた静かに口を開いた。
「軍の偉い人が来て、教えてくれたんだ。
理由は勿論聞いたわ。
皇帝陛下に、突然襲い掛かったんですって。それで、仕方なく射殺したって。
嘘みたいでしょ?私もそう思って言ったら、もっとショックなこと聞かされちゃった。
――撃ったの、兄貴だ、って。だから、家族までは罪を問わないって。
おかしいと思わない?兄貴に聞いてみても、その事は家族にも話しちゃ駄目、って言われたって云って……それから兄貴、おかしくなったのよ!」
フィネットのツラさが、ヒシヒシと心の底まで伝わって来るようだった。
たまにしか会わないレズィンには、中の良い兄妹にしか思えなかった二人に、過去にそんなことがあろうとは思いもよらなかった。
ただ、不審な点が一つだけある。
大した地位も無かった筈のその頃のリットが、皇帝と二人が話し合う場に居合わせたというのは、余りにも不自然では無いだろうか。
「それにね。戻って来た死体も変だったんだ。
一週間も経ってから、一度だけ見る事が出来て……その時もおかしいと思った。
それでね。死体が……何か、作り物みたいだった。
勿論、一週間も経ってるから、多少は……腐って、変になってると思った。けど、それにしても変だった。
だからね、ひょっとしたら……二人共、生きているんじゃないかなって、少しだけ思う事にしたの」
笑って……今度は本当の笑顔を見せて、そう云った。強い子だ。レズィンは心底そう思う。
「だからね、レズィンさんは……危ない!」