第52話 核対策
「で、どんな塩梅ですかね?」
紗斗里がそう切り出した時の、隼那と恭次の表情を見て、紗斗里は「あ、コレはダメだ」と悟った。
「そうね……。アーンギルとセレスティアル・ヴィジタントの抗争を起こす為に情報操作して、セレスティアル・ヴィジタントが露に潜入中。
日本での時みたいに、テレビ局を全部制圧するとか、ソコまでの真似はしていないみたい。
情報があまり入って来ないから何とも言えないけど……。
芳しくない、としか言えないかしら?」
「そうですか……。
どうせなら、露の全核弾頭をターゲットにして、一斉にグングニルを打ち込むとか、その位はして欲しかったのですが……」
「――!」
隼那が驚きの顔を見せた。
「そうか!ソレを狙っているのかも知れないのね!
もうちょっと、情報操作してみようかしら?
露に核と云う切り札が無くなったら、然程強気にもなれなくなる!」
「やれやれ。この位のアイディアは、僕の協力も無しで捻り出していただきたかったですね。
それで?そのアイディアがあれば、後は何とかなりそうなのですか?」
「そうとも言えないのよねぇ。
未だに、露の北海道侵攻の可能性は否めないし……。
影武者説があって、既に首相本人は死んでいる可能性があるとは言え、その主義主張が変わらない限り、意味が無いもの。
資本主義の社会主義国なんて、最悪だもの。
だから、より新しい主義を見出さないと、世界は破滅に向かうわ」
「主義・主張より、独裁こそが根本的な問題だと、僕は思うのですけどねぇ」
「でもって、いざ状況が悪くなれば、あの阿呆が責められるのよ。自分たちは運命と戦う事もしないクセに」
「いえ。より強く戦っている者から責められる分には、それは仕方がないですよ。
問題は、ソレに付随して責めて来る者たちでしょうねぇ……。
と云って、対策も何も無いのですけれど」
「上手い具合に無視されないかしらね?
これまで散々、無視して来たのだから」
「でも、上手くいったことに気付かれぬまま、何の評価も得られずに終わる可能性がありますよ?」
「いいじゃない。平和に事が済むんだったら。それに越したことは無いわ」
「480万年、人類が核を使う事無く、繁栄をしていったら。
地球も、それが本望なのではないか?」
「仏教は、56億7000万年もの、何とも気の遠くなる時をお望みのようだけれどもね」
「ところで」
紗斗里は、一本のペンのようにも見える品を取り出した。
「コレ、『Dark-Lion』と云う、個人用バリア機能を持つアンチサイ商品なのですが、実は核の威力にも耐えられます。
問題は、日本人だけでも良いから、全員に行き渡るようにしたいのですが、量産化の為の計画、立てられませんかねぇ?」
「待って、紗斗里ちゃん」
唯一、生産者側の立場にある疾刀が、紗斗里に問い掛けた。
「元の性能は、銃弾を防ぐのが精一杯で、しかも未完成だったのだけれど……」
「コレの完成には、僕か疾刀の髪の毛を1センチ程必要とするのです。
気付いていますか?疾刀は、アンチサイ能力では、僕に匹敵するのですよ?」
「――つまりは、こう云う事かしら、紗斗里ちゃん。
貴方たち二人は、核の威力にも耐えられるバリアを展開出来る、と」
「全く以て、その通りですね」
紗斗里はニヤリと笑った。
「大量生産が可能なら、日本は核に依る死者をゼロにまで抑える事すら可能ですよ」
そして、「尤も」と断り、こうとも言う。
「『核の冬』による死者までは助けられませんから、ソレへの対策は必要になりますけどね」
その言葉を聞いて、隼那は露の核だけでも、全て無力化して欲しいものだと思うのだった。