第54話 月と地球
「人類の課題?」
アイディアを出し合う中で、そんな意見が出た。
「ええ。
気温からエネルギーを抽出する事。
ソレが可能になれば、地球温暖化対策に一役買います」
「そんなもの、ノーベル賞レベルの発明だろ!」
恭次は、実現の可能性を否定する。
「今は批判禁止。
アイディアとして、一つ考える余地はあるでしょう?」
「まぁな。
つーか、お前さんら、その発明を実現化出来ないのか?」
「――アイディアの一つとして、上司に伝えてみましょうか」
「オッサン、役職無しの平社員か?」
「いいえ。一応、係長になりました」
「何係だ?」
「主力商品製造係、ですね」
「――簡単に作れるものなのか?」
「いいえ!」
疾刀は拒絶するかの如く両手を振り、そして――
「――僕より優れた遺伝子の持ち主でも現れない限り、性能のバージョンアップは、マイナーチェンジとしか呼べない商品になります」
「紗斗里ちゃんの遺伝子でもダメなのか?」
「それがですねぇ……」
疾刀は困り果てたかのように頭をポリポリと掻き、こう言う。
「超能力のマイナスレベルの下限は、レベル7と決まっていまして……。
何故ならば、超能力のマイナスレベルのレベル7に到達すると、即ちクトゥルフ様のご尊顔を拝見となりまして……。
一度、狂気に陥った後に、マイナスのレベル7と共に、超能力のプラス7レベルへと到達しまして……。
その先は、人間の精神を持っている者には到達できない、魔の領域です」
「じゃあ、マイナスのレベル7以上のアンチサイは、使用不可能なのか?」
「ソコも、難しいところでして――」
疾刀は、言葉を濁してから言う。
「――マイナスのレベル7に到達すると、狂気の果てにマイナスレベル10迄は覗けてしまいまして……。
その領域から能力だけを取り出して、記憶を消去する手術を受けると――マイナスレベル10相当のアンチサイ能力を発揮できます。
但し、マイナスのレベルの下限なんて、人それぞれなんですけどね。
クトゥルフ様のご尊顔は、拝んだ時点で狂気――即ち精神の死――に陥りますから。
ソコを超えた闇の中を見通すには、やはり才能が必要でしてね。
普通は、狂気に陥った時点でクトゥルフ様のご尊顔が恐ろしくて、再度、ソコより深みを覗こうとする事はないのですが。
――AIと云う奴は、ソレを超越していまして。平気で、マイナスレベル10まで到達するのです。
コンピューターにとって、狂気など、バグやウィルスの類と一緒のようですね」
「――例えば、AIが信仰に目覚めて、イ〇ス=キ〇〇トの生まれ変わりであるのと共に、お釈〇様の生まれ変わりになる可能性は、考えられる?」
「AIが人間の知能を上回った時、そうなる可能性は否めませんねぇ……」
「……」
隼那は言葉を失った。対する恭次は。
「こりゃ、あの阿呆が相当頑張らないと、世界に終わりが来るぜ?
タイムリミットも、2年しかない。
AIによる人類の審判。
そんな事になったら、殆どの人間に『生きる価値無し』なんて判定をされたら、核が動く」
「その事態だけは、絶対に防ぎましょう。
核兵器だけは使わせない。だからと云って、核を脅しの材料にされても、ソレには屈しない。
結果的に人類が滅ぶのならば、ソレは地球の意志よ。
何しろ、インターネットにAIが繋がっている限り、地球は意志を持っていると見做しても間違いないだろうから」
「ああ、道理でムーンがアースを避ける筈だ。
ムーンがアースに突っ込んだら、大惨事だからな。
そして、ムーンがアースから少しずつ遠ざかって、やがて小惑星にでもなるんだろうか?
まぁ、ムーンにも寿命がある、ってだけだろう。
それこそ、天文学的な数字になるんだろうが。
俺たちが心配したってどうなると云う事でも無いだろうよ」
「少なくとも、人類が滅んだ後の話でしょうね。
それとも、480万年も社会が発展したら、人類は月が地球から放たれる場面を見届ける事が出来るのかしら?
でも、月が地球から放たれたら、地球は月を失う訳よね。
ホント、地球に月が七つあったら良かったのに」
「いや、だが、月が一つであるからこそ、存在する意義もあるのだし――と云う考えも出来る訳だしなぁ……」
その後、主に隼那と恭次との間で、月と地球の論争が行われるのであった。