時空龍

第18話 時空龍

「そう云えば、どうして動画撮影は出来ないんだ?」

 戻って来た日常の中、デッドリッグは昼食時にそんな疑問を口にした。

「秒間60枚を撮るには、瞬間的に画像を撮影する事が困難なのです」

「秒間60枚映すのは可能なのに?」

 ローズは、ハーッと息を吐いてこう言った。

「秒間60枚撮る為には、データ保管の為の時間と、新しくデータを保管する為の領域の確保の時間が必要なのです。

 ソレを秒間60回繰り返すのは、私たちの技術では難しかったんです」

「うーん……その魔法機を使う際には、『龍血魔法文字命令』が必要なんだろう?

 一回、俺に任せてくれないか?

 一応、前世では基本情報の資格持ちだったんだ」

「基本情報?何ですの、その資格は」

 うん、ローズ達がロクに知識も無いのに、無理矢理創り上げてしまった事に、デッドリッグは気が付いてしまった。

「古い名前では、初級シスアド。プログラミング言語に関わる資格だよ」

 えっ!と、ローズはちょっと驚いた。

「……それでは、本当にある程度、『何でも』出来てしまわれるので?」

「うーん……、試したことが無いから、今は何とも言えない。

 ただ、ド素人よりはマシな結果は出して見せるよ」

 澄ました顔でそう言ったのだが。

「ソコは、ドヤ顔で自信たっぷりに言って欲しかったですわ」

 ……何か、妙な言い掛かりを付けられたようだ。

「MOSマスターとITパスポートの資格も持っていたけれど……流石に、相当忘れたよ」

 基本情報の記憶も、習っていた当初よりは相当腕は落ちている。

 リバーシのプログラミングで、コンピューターで相手がランダムに手を打ってくれる程度の事は出来たのだがと、デッドリッグは思う。

 『龍血魔法文字命令』は、ほぼプログラミング言語とイコールである。

 ただ単純に『龍』の血液を必要とする事と、プログラミング言語と云うよりHTMLにより近い命令の仕方をするものである。

 尚、デッドリッグの前世は辰年生まれだったが、自身の血液を用いて『龍血魔法文字命令』をすると、劣化版が出来上がる。

 故に、デッドリッグはヒロイン達を含めて、誰にもその事を教えた事は無かった。

 因みに、『辰年』を含む、十干十二支じっかんじゅうにしと云う概念はこちらの世界には無く、前世の記憶持ち達の間で、稀に話題に挙がる迄だ。

 暦も『皇国期2086年』を数え、1年は12ヵ月、1ヵ月は基本30日だが、頻繁に閏年うるうどしがあり、12月は大抵31日まである。

 1週間は7日で、1日は27時間。閏日が頻繁にあり、28時間の日もある。

 1時間は60分、1分は60秒。

 厳密に計算した学者が少ないので、閏年と閏日でのみ、微調節をしている。あとは、『時の支配神』と言われる神のお告げと云う形で、閏時間や閏分が齎される。

 形で、と云うのは、昔の偉い学者さんが発明した、『龍血魔法文字命令』でなるべく正確に時間を調節する為のシステムから齎される情報だ。

 故に、この世界の時計は歪だ。ただ、『時の支配神』の流す時の情報が電波のように何処へでも伝わっていて、閏日・閏時間・閏分に合わせて動く。

 具体的には、時間や分や秒の最大値まで表示する設定にしておいて、修正する必要があるタイミングで、針が一気に動いて修正するのだ。

 故に、時計は『龍血魔法文字命令』での製品となる。機械仕掛けだけで作るには、電波を受信するシステムが必要となり、今の時点では正確な機械時計は存在しない。

 序でに言うと、『時の支配神』の化身と言われる『時空龍』と云う存在が有史以前から存在していて、未だ健在である。

 一説によると、『時空龍』の死ぬ時、世界は滅びると言われている。

 勿論、その血を抜く事など、許されない。

 一見、黒龍のようにも見えるのだが、『時空龍』は三眼で、蒼・紅・碧の三色の目を持つと言われ、その色の配列次第で、何かしらの意味があると言われている。

 その謎を解き明かした者が居ないので、検証を行うのも一苦労だが。

 又、ある一説によると、『時空龍』に認められなければ、『エンピリアル皇国』の皇帝の座には座れないと言われている。

 バルテマーは、幼少期に『時空龍』に認められている。故に、バルテマーを皇帝の座に据えるのは、確定事項なのである。

 一方で、デッドリッグは認められていない。だから、バルテマーのスペアにもなれない。

 『時空龍』の齎す加護は強力なもので、『創造神』からの直接的な干渉も、低減されると言われている。

 実際問題、『時空龍』も『創造神』に動かされる存在なので、『時空龍』経由でバルテマーに干渉する事は容易であると推察されているが、仮説に過ぎない。

 故に、皇帝は『時空龍』と顔を合わせる事があり、そして、バルテマーも一度に限り、『時空龍』と出会っている筈だが、噂では実情は怪しいと言われている。

 『時空龍』そのものが、『時の支配神』の『偶像』と言われて居たりなど、実際に出会った事が無い者は何とでも言うものだ。

 一時期、『時空龍』が酷く弱っていた時期があり、その際には『世界が滅ぶかも知れない!』と大騒ぎになったが、現在では持ち直したらしい。

 皇帝の弁に因れば、「『時空龍』の寿命は、あと約480万年」と言われている。

 実際に世界にそれだけの寿命が本当にあるのかは不明だが、『時空龍』とて、実際のところ、あと何年生きられるのかは謎なのである。

 ただ。ただだ、『時空龍』の弱った原因である『呪い』は、あと3年で完全に解けると言われている。

 それが正しい情報なのか、それは良く判らない。

 だが、『時空龍』が完治し、暴れたりするのでなければ、皇帝との繋がりは重要である。

 それが故に、デッドリッグは皇帝にはなれない。

 別に、バルテマーに恨みがある訳でも無いのだ。

 皇帝の座に興味があるでも無し。

 ただ、デッドリッグはただ、純粋に平和な余生を求めているのだった。