第26話 新8属性
ムーン=ノトスは悩んでいた。
『αシステム』コアは出来つつある。既に、商品となり得るものが、複数出来ている。
売却すれば、利益は出る。だが、それでは今までと大差が無い。
ならば、新たな使い道を考えなければならない。いや、誰かが考えてくれれば済む話だ。
他の研究室にコアを持ち込んで、用途の研究をして貰いたい。いや、して貰うべきだ。
決断すると、行動は早かった。
「サトゥル、少し外に出る。作業は任せた!」
「はいよー」
ノトスは、隣の研究室から虱潰しに他の研究室を当たって行った。
そして、前向きに真剣に考えようという研究室に当たった。
「やはり君になったか、ボレアス」
ボレアスと呼ばれた男は、サンプルのコアを手にして眺めながら、こう言った。
「他の研究室じゃ荷が重い。全研究室を回ったとしても、この俺の研究室しかその研究に興味を持つことも、実績を挙げるだけの成果を出す事も出来ないだろうよ」
それは、『北の四方風神』とも呼ばれ、ノトスと並び称される男の研究室だった。
「で、どれだけの数のコアを提供してくれる?」
「日に三つは確実に。但し、週に2日は休ませたい」
「期限は?」
「特に定めないが、最初の一つは一月以内にアイディアを出して欲しい」
「フム……。厳しいが、納得できる注文を頂いたな。
よろしい。俺に任せなさい」
「頼んだ」
日に三つ。それは、サトゥルの能力の限界ではない。売却益でサトゥルへの報酬と研究費の捻出の為に弾き出した数値だ。
「ああ、そうそう。軍事利用だけは、これに限って、研究をしないで欲しい。
『αシステム』は、兵器とはしたくない。……現状でそう出来るようにはなってしまっているが、積極的に兵器化したり、威力を上げたりは、それを予防的に避けたい」
「ご尤もだ。
威力を抑える方向性で、検討しよう。――発電程度なら、既に出来るしな。
新たに8属性が発見されたのは、やはり大きいよ」
新たに発見された、8属性。それは、『央表時空引斥電磁』の8属性であった。
コレは、未だ一部の研究者しか知らない。発見者は、ムーン=ノトスだ。
失われた古代の技術にも存在していなかった、その新8属性。ソレは、どれを取っても非常に強力なものだった。
それらに関しては、その属性専用のXコアすら存在していなかった。
「例えば、新8属性に対応するコアのセッティング、とかでも構わんのか?」
「フム。それはそれで十分な成果であろうけれども、それのみでは困るな」
「中々注文の多い依頼だことだ。
が、日に三つものコアを用意してくれるとあらば、当然と言えような。
――で?コアの売却を禁ずるという条項は設けなくても良いのか?」
「出来るだけ避けて貰いたい。資金が必要なら、研究の余剰分のコアを売却して、コチラから提供する。
それならば、売却の必要は無かろう?」
「当初は日に三つのコアは必要であり十分だが、次第に、余しがちになるだろう。
それこそ、三日で余しがちになる事は、目に見えている。
その時はどうすれば良い?」
「申告して貰えば、供給を減らすなり止めるなりする。
だが、三日で余すか。――ん?新8属性をストレートで揃えた時点で、まず一つの成果が出るのか。
予備の一個は良いとしても。四日目からの供給については、その日になってから、応相談とするか。
……ああ、三日で8属性を揃えるのも難しいと、そう云う事か。
四日目は、ひとまず供給停止と云う事で構わないかな?」
「ウム。それで良かろう。それだけで、ひと月は研究に費やすだろう。
まぁ、今現在の段階では、それ以上は言えん。研究に専念させてくれ」
「分かった。各属性のコアの性能も調べて貰えるか?」
「良かろうよ。ただ、コアの単体における性能は調べられるが、コアの秘めた可能性までは調べられんと――そう思っておいてくれ」
「当然であろうな。――では、任せた。明日と明後日、コアを持ってまた来る」
「ああ、待っとるよ」
ムーン=ノトスはコアを三つ残してその研究室を去った。
一つ、頭を悩ませている案件があったのだが、それについては独自に追究しようと、ノトスはそう思っていた。