第27話 救世主?!
コアをボレアスの研究室に計9つ預けた後。
一月後には、以下の報告が届いた。即ち――
『央』王 中心を司る
『表』女王 表面を司る
『時』隠者 時間の流れを司る
『空』商人 空間の広がりを司る
『引』愛人 引き寄せる事を司る
『斥』騎士 跳ね除ける事を司る
『電』忍者 電気の流れを司る
『磁』侍 磁場の動きを司る
――以上の新8属性と、それに対応するコア8つが。
「良し!コアを10個提供して、次の研究に進んで貰おう」
早速、ムーン=ノトスはボレアスの研究室に向かった。
「ほぅ!こんなにもコアを提供してくれるとはな!
――アレだけの結果では、納得出来なかったか?」
「いや。ただ――恐らくは、まだ未知の属性が存在すると考えられる。
それを見付けてくれるだけでも、十分な成果としよう」
「――その根拠は?」
「第7感。『神』の属性が、未だ出ていない。女神は存在するのに、な。
おかしいとは思わなかったか?」
「そう云えば――そうだな。
だが儂は……他に思い付くとするならば、木、土、金――そして混沌と秩序位しか思い浮かばぬよ」
「――混沌と秩序はありそうだな。
だが、木も土も金も、『地』の属性でカバーされていそうな気はするがな」
「混沌の神と、秩序の鬼、と云ったところだろうな。
探してみよう。――ああ、探して見つかりそうなものだったら、善と悪も存在していそうなものだがな」
「恐らく。突き詰めて行ったら、無数に可能性は存在している。
問題は、それらを暴走させることなく制御することだ。
――特に今、突き詰めて貰いたいものを挙げて貰うとするならば、『戦争』と『平和』だな。
それが制御出来なくば、安心は出来ぬよ」
「それならば、『混沌』と『秩序』に含まれていようよ。
『戦争』は『混沌』。故に、残念ながら、勝てば『正義』、負ければ『悪』と見做されてしまう。
『平和』は『秩序』。『秩序』を守ろうとしない者は、『戦争』に駆り立てられようよ。
そして、『秩序』など要らぬと言うのであれば、世界は滅びに向かうであろうよ」
「折角、世界が滅びに向かおうとするのを止めようとしたのだがな。残念ながら、現状がそのまま進めば、世界には滅びが齎される。
即座の、戦争の放棄。そして、『和平交渉』のカード。これが重要であったのだが、手放してしまい、入手の努力もしたものの、再入手は絶望的となっている。
ひょっとしたら、『地球』はもう滅びたがっているのかも知れぬな。ラスボスは分かっているのに、討つ事は極めて困難、と云った状況か。
全ては、古き預言が原因か。救世主など現れようとも、ラスボスはソレをこそ討たんとしまい。だから、救世主は鳴りを潜める。
故に、世は救われぬ。救世主自身が、世を救う行為を放棄した。――余りにも、イジメられ過ぎた。
故に、『サタン』を始めとする魔王達も、『全知全能の神』の一部であり、『全知全能の神』は悪しき側面も持っている。
……まぁ、仮説だがな。『全知全能の神』の信者は信じまいな。
預言さえ無ければ、この世界の寿命はもっと長かった筈であろうにな。預言の信者が多過ぎる。
少なくとも、救世主が世を救うのを馬鹿らしいと思う位にはな。
そして、救世主には、何の才覚も地位も名誉も無い。世に認められるだけの実績も残し得ぬ。うだつが上がらぬ運命故にな」
「……ノトス殿は、そこまで突き止めましたか」
「馬鹿らしいにも程がある。俺もそう思う。
わざわざ、世界に終わりを作っておいて、それを信じる者が多数居て、世界を救えとか、どういう冗談かよ。
失敗することが目に見えている。そこまで俺に言わしめる事態が既に、手遅れよ。
戦争を止めよと云って、従う者がいよう筈が無い。例え、その戦争の代償が世界の破滅だとしても。
真面目に考えることが馬鹿らしい。多少ふざけていた方が、面白い分だけマシな程だ。
良いか、救世主は、真っ当な手段を以って世に認められ、その結果、世界を救おうと云う程度の気持ちだ。
前提条件の、『真っ当な手段を以って世に認められる』という事が、成し遂げられぬ運命に生まれ、魔界を裏切っていながら、天界の目的である、『世界の完全な破滅の回避』を、ある理由から断念した。
まさかの、『母親のレイプ』と云う手段でしか救えない命を、見捨てた。……代替行為はしているが、ソレで救えるかどうかは、甚だ疑問だ。
救世主は一人では無い。ソレが、如何なる意味を持ち得るかは甚だ疑わしいが、他の救世主に任せるしかあるまい。
――世界がそんなに脆く無い、と云う事を信じたいがよ。余りにも符号が合い過ぎている。
ただ一つの希望が、そんなに簡単に拾い得るとは思わぬし、そもそも肝心な『ラプラスの魔本』のデータは無い。
そのデータさえあれば、真に救世主たり得たのだろうがよ。
……いっそのこと、新たに作ってしまおうかとも思ってしまいたい程だ。だが、そんな余裕はあるまい」
言ってからノトスは、「それしか手段は有り得ぬのではないか?」と思ってしまうが、確かに、そんなものを作る余裕は無い事に気付く。そもそものアイディアが無い。
アレは、狂気の最中であったから故に作り得た物だ。再現は非常に困難だ。
「ただ、幾つかの国名を変えるだけでも、相当に影響があると思われるのだがな。
だが、人類全てが信じてくれるのでも無くば、そこまでの影響力も有り得ぬだろうし、『蘇り』でもせねば信じて貰えぬのであれば、やはり公開処刑が必要になって来る。
……いや。人類全てが信じるのでも無い限り、蘇りを起こす事もあるまい。
やはり、救世主たり得ぬ、かよ」
せめてたった一つの希望を掴めれば。ノトスは、そう思わずにはいられなかった。