第47話 支配領域
「茶番は、終わりにしようぜ」
すぐ後ろに、レズィンがいた。
手にラフィアを抱えてはいない。意識が無くても、何の支えも無しにラフィアはもっと後ろで立っていた。浮いていたと云う方が正しいのかも知れない。
「茶番と云うのは、どういう意味だ?」
声も口調も、ゼノのものだ。
妖精が言わせているのか、それとも本人が自分の意思で言っているものなのか、見分けがつかない。
「最初に銃を使ったのは、失敗だったな。
分離した意識は、ココではすぐに消滅してしまう筈……。アンタが俺に教えてくれたことだろう?
おっと、動かない方がいいぜ。何故だか知らないが、今、俺たちの居るこの場所では、銃弾も威力を持つことは実証済みだからな。
……一つ聞こう。
アンタ、何が目的なんだ?」
「世界を我が手に……」
「違う!俺の聞きたいのはそんなことじゃねぇ!
俺が訊きたいのは、今、ここでこんなことに俺たちを付き合わせている理由の方だ!」
『キャハハハハハハハハハハハハ!』
辺り一帯の空気が大きく震える。……いや、空気では無く、樹液なのだろうか?
声が聞こえるだけでは無く、目に見えている映像そのものが、小刻みに震えている事すら分かった。
「早く撃ちなよ、レズィン。
どうせソイツは、中がグチャグチャになってるんだから、楽にしてあげなよ。
それと一つ。
接触していなくても、意識は分離したからと言って、必ずしも消滅はしないのよ。
ソレが、その人の支配領域内であればね。
あなたも賢者の石を飲み込んだことで支配領域も広くなったみたいだけど、私の支配領域は狭くないのよ、あなたほどには。
……撃たないの?あなたが殺さないなら、私が殺してあげる」
レズィンの目前に、尖ったものが光る。振り向きもせずに突き出した、ゼノの剣だ。
だがレズィンは怯まない。
自らの肩の上に乗せられた剣は、刃をゼノ自身に向けて、寝かされている。
次の瞬間、その剣の先端は水平に走る線と化す!
『キャハハハハハハハハハハハハ!』
血飛沫は上がらない。ただ、足元に丸いものが転がり落ちただけだ。
傷口から崩壊が始まる。
人の姿を保っていられたのも、数秒の間だけだ。
その短い時間に、頭を失った胴体が藻掻き苦しむようにのたうち回る。
「腐ってやがる……」